第117話 花火大会のご予定は?
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八月に入り、各地で花火大会が始まった。
毎年、田舎の花火大会を観に行っていた美夜は、今年は行けない事を、心から残念に思っていた。
美夜は休憩時、栄の作った賄いを食べながら、昨夜実家から電話があった話を光に話した。
「花火大会が十日にあるけど、帰ってこないのかって言われて。子供の頃から、毎年欠かさず、家族で近くの海岸に観に行ってて。そりゃ、今年も見たいけど、仕事だから行けないじゃないですか。だから行けないよって言ったら、ついに家族で観に行けない日が来たか、とか言うんですよ。どうしろって言うのって感じですよ」
涙で目を赤く腫れさせていたあの日以降、美夜は何かに踏ん切りが付いたかのように、すっきりした表情で仕事をしていた。
栄に話しかけられても平静で、仕事に対して集中力が戻り、光の話もしっかり聞き、時には意見や提案も言ってくる。
休憩時間になると、仕事中の集中力とは違う、お喋りのスイッチが入るのか、色々な話しをした。
光は終始聞き役だったが、苦では無かった。美夜の話題は様々で、聞いていて飽きない上、ころころ変わる表情を見ているだけで可笑しかった。
美夜がここで働き始めた時は、こんなに色々な表情をするとは思ってもいなかった。
どちらかというと大人しく、すぐに赤面をして良く笑う。そういう印象が強かった。しかし、最近の美夜は、ついに本性を現したか、と言うほど、初めの頃とは別人のようだった。
「それで、昨日の夜、美月と近くのコンビニに行って雑誌買いに行ったんです。花火大会の特集が載ってる」
「夜って、何時頃?」
光はお茶を飲みながら、何気なく訊いた。
「えっと、十一時過ぎてたかな……。そのくらいの時間です」
光はそれを聞いて軽く咽せる。
「そんな時間に出歩くなよ。危ないぞ」
「大丈夫ですよ。美月も一緒だったし。それに、コンビニまで五分程度ですから。それで、帰ってから雑誌見てたら、この辺でもあるんですね、花火大会」
光は考えるように小首を傾げ「ああ」と言った。
「二つ先の駅のかな。河川敷であるんだよ」
「ここから遠いですか?雑誌見ててもいまいち土地勘が分からないせいか、距離感が分からなくて」
光は唸るような声を出すと、「そんなでもないよ」と答えた。
「本当ですか?じゃあ、みんなで行きませんか?仕事終わってから」
「いつ?」
「三日の日。明後日です」
「土曜か……。土曜だと通常営業だから、間に合わないんじゃないか?」
「ええ!」
美夜は悲劇的な顔をして「そんなあ」と声を上げた。
光は笑いながら「仕方ないよ」と返す。
「花火大会は早くても七時半とか八時頃から始まって、九時には終わるだろ?ここを定時きっかりに上がって出ても、着替えて店を出る頃には七時半は回ってるし、まず車は混んでて動けない。そしたら、電車になるけど、それも混んでるだろうし。それに、タイミング良く電車が来るとも思えない。そうなると、やっぱり間に合わないよ」
光のもっともな意見を聞いて、美夜はトレーを横にずらすと、テーブルにうつ伏せになった。
「それじゃあ、今年は花火見ないで終わるんだ……。そんなの、夏じゃない」
美夜のいじけた声を聞き、光は吹き出し、声を上げて笑う。
「笑うこと無いじゃないですか」美夜は不貞腐れた顔を上げて抗議した。
「だって、たかだか花火でそこまで……」
「たかだかとは何ですか!たかが花火、されど花火ですよ。コウさんは花火みたいと思わないんですか?」
「あんまり思わないね」
「どうしてですか?」
「混むし、足踏まれて痛いし、面倒臭い」
光の意見に美夜は眉を顰め「ものぐさめ……」と思わず呟く。
光はピクリと眉を動かすと薄目を開けて美夜を見た。美夜は顔を逸らし、「さあ、そろそろ行こうかな」と、光のトレーと自分のトレーを持って休憩室を出て行った。
光は小さく吹き出しながら後ろを振り返る。窓の外には眩しい光が溢れていて、目が眩む。
「花火ねえ……」
光はゆっくり立ち上がりバンダナを巻き直すと、休憩室を出て行った。
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