第10話 チーズケーキ
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暫くして、ギャルソンが四種類のケーキを乗せたトレーを持って、再び美夜の前に立った。
「すみません、本日は殆ど売り切れてしまっていて種類がないのですが。どちらのケーキになさいますか?」
ケーキはシンプルなチーズケーキとサバラン、フランボワーズのオペラ、フルーツタルトの四種類。
色鮮やかで丁寧な作りに、美夜は目を見張る。
「すごい、素敵……」
美夜は目を輝かせ、ケーキを眺めた。
「どうしよう、迷いますね」
美夜は頬を赤らめてギャルソンを見上げると、ギャルソンはにこりと微笑み、礼でも言うかのように軽く頭を下げた。
「どれが、お勧めですか?」
美夜が訊ねると、穏やかで耳心地のよい声が、柔らかく響く。
「一番地味ではございますが、こちらのベイクドチーズケーキがお勧めです。シンプルですが、スフレのような柔らかい口当たりの良さが癖になります。甘さ控えめですが、満足感は保証します」
「じゃあ、チーズケーキをお願いします」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
ギャルソンはカウンター奥へ向かうと、一人で準備を始めた。
美夜は、ふと画集に目をやり、袋から出す。
少し黄ばんだ表紙。この本を最初に買った、誰かの気配を感じながら、ゆっくりページを捲る。
古い本独特の香りが、店内に漂うコーヒーの香りに重なる。それは、何とも言えない心地のよい香りに感じ、美夜は小さく微笑んだ。
店内に流れるピアノソナタは、さながら美術館の様で、美夜を絵の中の世界へ誘う。食器の重なり合う音も、音楽の一部の様で、こんなにも心穏やかに、気持ちが落ち着くカフェは初めてだと美夜は感じた。このカフェは、きっと美月も気にいるに違いない。これでケーキが見た目通りに美味しければ、自分達は間違いなく、この店の常連客になる。いや、ケーキを食べなくても、きっとそうなるだろうと、確信した。
美夜は画集を捲りながら、今日あった出来事が、この店との巡り合わせによって、浄化されていくような気持ちになった。
ケーキ屋巡りは、はっきり言って惨敗だったが、こんな素敵な場所を見つけられたのは、運が良かったのだ。ここに訪れた事により、しょげた一日で終わるのではなく、素敵な一日だったと思えて終えられると思うと、ほんのりと幸せな気持ちが湧き出てきた。
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