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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
3 恋

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第104話 デート

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 駅に着くと、辺りを見回した。駅で待ち合わせ、とは言っていたものの、どこの前でという指定はなかったからだ。

 美夜は腕時計を見た。時間には、十分ほど早く着いている。

 きっとまだ来ていないのだ、と思った美夜は、駅の中には入らず、通りに面した壁際で待っている事にした。

 大した時間を待っている訳でもないのに、時間の進みが遅く感じる。何度も時計を見ては、何分経ったか心の中で呟いた。

 そうやってカウントしていると、次第に心臓の動きが速くなってきた。徐々に手に汗をかき始め、美夜は鞄からハンカチを取り出す。


「ねえ、誰か待ってるの?」


 急に視界が暗くなったと思い顔を上げると、若い男が二人、美夜を囲う様に立っていた。

 美夜が驚いて何も言えずに居ると、二人の男は顔を見合わせてアイコンタクトを取った。


「ねえ、彼氏、来ないんでしょう?さっきからここにいるよね?」


 服をだらしなく着崩した男が、嫌な笑みを浮かべて言ってきた。


「俺ら、今から映画行くんだけど、君もどう?」


 もう一人の顔の黒い男が言った。ガムを噛み、にやけた顔を近づけてきた男を、美夜は嫌な顔をして「退いてください」と言い、避ける。


「退いてくださいだって。君、かわいいよね」


 先に声を掛けてきた男が、一歩美夜に近づく。美夜は鞄を胸元で抱え、顔を伏せた。


「ちょっと、僕の連れに何かご用?」


 美夜を囲んでいた男達は素早く後ろを振り向く。聴き馴染みのある声に、美夜は顔を上げて声の主を見た。

 栄が「お待たせ」と微笑み手を振る。

 美夜が泣きそうな顔をすると、栄は美夜の腕を掴み、「走るよ」と言い、男達の間から連れ出した。

 男達は追っては来なかったが、栄は相手から見えない場所まで走り、大丈夫と思えた所で走るのを止めた。

 栄は美夜の腕を放すと、近くにあった手摺りに寄りかかった。

 二人は切れた息が落ち着くまで、ひたすら呼吸を整えた。


「ごめんね、遅くなっちゃって」


「いえ……」


「大丈夫だった?怖かったでしょう?」


 栄は息を切らしながら言う。


 美夜は頭を横に振ると、「大丈夫です」と答えた。

 栄は安心したように微笑み、顎を引いた。

 息が整うと、「いやあ、三十近くなると、なかなか上がった息が落ち着かないわ」と苦笑した。

 美夜は笑い声を上げ「二十三でもそうですよ」と答えた。


「じゃあ、二人とも運動不足って事か」


 栄は苦笑し、頭を掻いた。

 美夜は改めて栄を見た。

 胸元のシャツを掴んでパタパタと風を入れ込んでいる栄の格好は、白のポロシャツにグラファイト色をしたシアサッカーのジャケットを羽織り、ブラックジーンズを履いていた。

 シンプルな格好だが、とても良く似合っている。


「そろそろ行こうか。どこか行きたい所とか、ある?」


 栄は美夜を見ると、優しい眼差しで問いかける。

 美夜は小首を傾げ、考えるように左下に視線を向ける。暫くして「取り敢えず、お腹が空きました」と答えると、栄は小さく吹き出して「そうだね」と同意した。 

 二人は少し歩いて、大通りまで出る事にした。


「知り合いがイタリアンレストランをやってるんだけど、そこでいいかな?」


「はい」


 美夜は栄の隣を歩きながら、周りの風景を見た。駅の反対側に来るのは初めてだ。小さな雑貨屋や、お洒落なカフェが点々と目に入る。


「ここだよ」と、栄はドアを開けた。


「いらっしゃいませ」


 店員の感じのいい元気な声が響く。


 店内は、厨房が見える様になっていて、栄は厨房の中の一人に声をかけた。


「なに、珍しいじゃん。どうしたの?」


 栄と同い年ぐらいに見える男性は、栄を見るなり嬉しそうに声を上げた。


「デートよ、デート」


 栄がにやけながら答えると、栄の友人は美夜に目を向けた。


「これはこれは、また若い子連れて。犯罪じゃないよね?」


 美夜は顔を赤くして俯いた。それを見た友人は「かわいいね、真っ赤だよ」と楽しそうに笑う。


「あんまり苛めないでよ。この子は、うちの従業員で美夜ちゃんって言うの。美夜ちゃん、こいつは、俺の高校時代からの友人で、徳山」


 栄に紹介された徳山は、好感の持てる笑顔を美夜に向けた。


「はじめまして、ここの店長の徳山朔也です」


「はじめまして、中西美夜です。よろしくお願いします」


 美夜が徳山に挨拶をすると、「美味しいのを作ってあげるから、いっぱい食べていってよ」とにこやかに言った。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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