第9話 紅茶
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階段を上り切り、ドアの前に立つ。真っ白い壁に、青い枠のガラス扉。ガラス部分は、手延ガラスの様で向こうが揺らいで見える。美夜は、ゆっくりとドアを引き開けた。と、同時に、香ばしいコーヒーの香りが押し寄せる。
ドアに付いた呼び鈴が鳴り、低く色気のある声で「いらっしゃいませ」と言う声が店内から聴こえた。
美夜は声の主へ視線を向けると、カウンターにギャルソンの格好をした男が一人、にこやかな笑顔を美夜に向け、姿勢正しく立っている。
「お好きな席へどうぞ」
そう言うと、ゆっくりと背を向けた。
美夜は目だけを動かし、店内を見回す。店員はギャルソン一人だ。内装は外観と同じ、真っ白い壁に、青い窓枠。
カウンターの席を合わせても二十席あるかないか、こじんまりとした作りの店だ。一階の本屋同様、木板の床で、靴音が鈍い音を立て心地よく響く。
美夜は窓際の席に腰掛け、天井を見上げた。木の梁がそのまま見えており、かえっておしゃれに見える。各テーブルの上には、ステンドグラスを使用したランプシェードが、天井からぶら下がっている。店内には申し訳なさ程度に、ピアノソナタが流れており、落ち着いた雰囲気を演出している。知らない場所なのに、妙に落ち着く。そんな事を考えていると、ふと人の気配を感じ顔を上げる。美夜の前に、先ほどのギャルソンが水とメニューを持って立っていた。
「失礼します」
ギャルソンは心地の良い低音の声で言うと、美夜にメニューを手渡した。
「お決まりになりましたら、お呼び下さい」
立ち去ろうしたギャルソンを美夜は慌てて呼び止めた。
「あ、あの、紅茶を……」
ギャルソンは、さっと振り向き、にこりと微笑む。
「茶葉は、いかがないさいますか?」
そう訊ね、美夜が手にしているメニューの「TEA」と書かれた部分を指さした。
その手は大きく骨張ってはいたが、長い指をした綺麗な手だ。美夜はさっと目を通すと「アッサムのホットで」と答えた。
「アッサムでしたら、ミルクが合いますが。ミルクはおつけしますか?」
「お願いします」
「かしこまりました」
ギャルソンは美夜からメニューを受け取ると、ふと美夜の荷物に目をやり「下でお買い物を?」と訊いてきた。
美夜はケーキのチケットを渡されたことを思い出し「あ、はい」と言い、ジャケットのポケットから本屋の店員に渡されたチケットを出した。
店内に気を取られ、チケットの事だけでなく、何故自分がここへ来たのかすら、忘れていた。期待していた店が、尽く駄目だったことで、がっかりして疲れているのかな、と思いながら、チケットを渡す。
ギャルソンはチケットを受け取ると、「少々お待ち下さい」と言い、カウンター奥へ消えた。
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