私には恋人がいる 《本好きの伯爵令嬢》
「マドレーヌさん、よかったら一緒にお昼しない?」
クラスメイトのエミリーとアメリアの2人が声をかけてきた。
この魔法学院の生徒の中でも、よく人からは変わり者だと呼ばれている私――ルフレ家伯爵令嬢のマドレーヌ・ルフレに声をかけてくれたのに。
「ごめんなさい。お昼休みは旧校舎の図書室で過ごすことにしてて、また別の機会に誘っていただけますか?」
「ううん、気にしないで。また誘うね」
私が申し訳なさそうに断ると、エミリーは私に笑顔で応じてくれた。
「ほらっ!だから言ったじゃない」
アメリアは、やっぱりというリアクションを小声でエミリーに話しかけながら教室をあとにした。
残念ながら、その小声は私の耳にも届いてしまっていた。
そもそも、旧校舎は生徒の間では、幽霊が出て不気味だと言われていて昼間から行こうというのは私くらいなもので、そのことが影響して生徒の間では変わり者の伯爵令嬢として有名になってしまっていた。
「さて、私も行かなきゃ」
私は読み終わった本を持って教室を出ると、まずは図書室の鍵を職員室に取りに行き、そのまま少し離れた旧校舎へと向かう。
お昼休みと放課後は旧校舎の図書室で過ごすのが入学してから2年間欠かさず続けている私のルーティーンだ。
旧校舎へ向かう途中の中庭では生徒がお昼を食べていたり、恋人同士で
会話をしたりしている姿が目に入る。私もそういうことに憧れもあるけれど、私は学ばないといけないことがある。そのためには、旧校舎の図書館の本は他の生徒には全く関心を持たれていなかったが私が学ぶには欠かせないかった。
「毎日、毎日ほんとに精が出るね。昼休みも放課後も、一人でここにやってきてることにマドレーヌの交友関係が気になってるよ僕は。ところで今はなにを調べているんだい?」
旧校舎の図書室で新しく借りる本を探しているとリヒトに心配そうな声で話しかけられた。
「ほっといてよ。好きで一人で過ごしてるの」
リヒトは私が調べてる棚を覗きこみながら
「ところで、いまは何を調べてるの?」
「現代魔法は一通り調べたから、いまは古代魔法について調べてるの。古代魔法なんて、ここにしかないから」
棚から目当ての本を探しながら私は答える。
リヒトは私の18歳年上の幼馴染。私が魔術師になるきっかけをくれた人だった。私が幼い頃はまだ、この旧校舎の図書室も学院生徒たちにも日常的に利用されていた。リヒトは、学院の職員をしながら、この図書室の司書も兼ねていた。
私が来るたびにリヒトは本の魅力を教えてくれた。物語の面白さ、知識の奥深さを教えてくれて、そうやって楽しく本について話すリヒトは輝いてみえて、そんなリヒトに私は恋をしていた。私にとっての初恋の人。
「僕も本好きだったけど、今ではマドレーヌには負けちゃうな」
「そんなことないわ」
私は借りる本を決めて、借りるための書類を書いて手続きを済ます。
「さて、戻らなくちゃ」
「もう、そんな時間か……」
「あっという間ね、また放課後に来るわ」
残念がるリヒトにそう慰めて、私は本を持って図書室をあとにする。窓からリヒトが手を振っている姿を目にすると、私も手を振って返して、新校舎へと歩き始めると、肝試しのつもりか間違って来たのか旧校舎の方へ来ていた新入生2人を見かけた私は注意を促す。
「そっちには旧校舎しかないわよ、一緒に行きましょ」
「あ、はい。すみません」
ばつが悪そうに2人は私の少し後ろをついてくる。
「ねえ、この人って噂の――」
「うん、間違いないわ」
新入生は後ろをチラッと振り返って、旧校舎に目をやる。
「だって、さっき旧校舎に誰もいないのに手を振ってたもの」
「やっぱり、この人が幽霊が見える幽霊令嬢のマドレーヌさんで間違いないのよ」
そう――新入生が話すように旧校舎には誰もいない。
図書室で話をしたリヒトは自分が死んだと気づいていない幽霊になってしまっていて、その姿は私にしか視えない。
盗賊が旧校舎の図書室にある貴重な本を狙って忍び込んだときに、リヒトが図書室に残っていて、その場で殺されてしまった。それ以来、貴重な本は新校舎に移され、旧校舎は使われなくなってしまい、普段は施錠をしてある。
私は魔法を勉強してアンデットでもない、悪霊でもない、初恋の人であるリヒトを成仏させるために色んな魔法を調べて学んでいる。
そのためには、友達とお昼をしたり、恋人を作ったりする時間が私には惜しかった。
まだ、リヒトを救う方法は見つかっていないけれど、色々と調べて分かったこともある。
『恋人』――想いを寄せる相手。辞書には、こう記されていた。
調べてみると、必ずしも恋人というのは相思相愛の仲である必要はなかった。
私は恋人であるリヒトを救い、愛していると伝えるために、私は今日の放課後も旧校舎の図書室に足を運ぶ――
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