9話
「……ということで、これにてゆかと孤高先輩は正式な部員認定されましたっ!」
いつもの放課後。
だが、今日は少し違う。
騒がしい声が教室内に響き渡っていた。
「夕夏さんに孤高君、まずはありがとうと言いたい所なのだけれど……リア充はこの部活に入部禁止よ?」
「いや、俺と春月はそんな仲じゃないからな?」
「そうですよ! 孤高先輩が不良に絡まれたゆかを庇ってボコボコにされただけの仲ですっ!」
「そう。それなら問題ないわね」
「全然問題あるんじゃないか……?」
頭を抱える仕草をしながら苦笑いする。
昨日春月に言われた「手を貸します」の意味が分からなかったが、こんな形だったとはな……。
「でも、実際二人はデートをした仲であって付き合ってはいないのよね? ならば大丈夫よ」
「まったく持ってその通りなんだが……俺の怪我とかの心配はないのか?」
「あら、一回殴られた程度なのよね? 女子ならばまだしも男子の孤高君に掛ける言葉は無いわ」
随分とまた辛辣しんらつな口調だな。
「本当に部活を退部するぞ?」
「それはゆかが困りますよ、先輩っ!
「そうね。でも結局私との勝負には負けたのだから、孤高君は抜けるというのはフェアじゃないわ」
口元に悪魔のような笑みを刻んだ直雪。
黙って本を読んでいれば絶世の美少女に間違いないだが、この饒舌じょうぜつが彼女の格を下げている。
「まぁそんな話は置いといて。これで【孤独部】こと文芸部は正式な部活動として認められたってことか?」
「そういえば、二人にはまだ説明していなかったわね。実を言うと、認定条件は部員数と顧問が必要なのよ」
「えっ、そうなんですか?」
眉根を寄せて耳を疑った。
直雪の言うことが本当ならば、まだ正式には部活動として認定されていない。
これじゃあ一体いつになったら始められるんだかな。
「なら、これからは顧問になってくれそうな教師を片っ端からスカウトしてみるのか?」
「大変じゃないですかっ。どうするんです、今宵先輩?」
怪訝な口調で問う俺たちに対して、直雪は気に留めもしない様子で髪の毛を払う。
「あら、そんなことは既に私が解決しているわ。二人が仲良くデートをしている際に、こっちも手回ししていたのよ」
「ん? そうなのか。ならもう認定されるんだな……で、その先生ってのは誰なんだ?」
「今日の本題はそのことについてよ。今後の活動予定
を顧問交えて話し合いするのだけれど……」
直雪が言葉を続けようする。
がしかし、教室のドアが突然スライドしたため俺たちの注意はそちらに向いた。
「やぁ諸君」
「『東雲しののめ』先生……?」
扉の前に立っていたのは、クラス2-5つまり俺のクラスに担任を持っている東雲先生。
紅蓮色の装飾に緑の食彩を施した、軍服を空想させる服装を身に纏まとっている。
「ご足労ありがとうございます。改めて紹介するわ……【孤独部】顧問は東雲先生に決まったわよ」
「この度、夕夏殿からお声を頂いてね。まぁ今後共頼むよ」
「夕夏先輩に孤高先輩……この先生、頭の方は大丈夫なんですか?」
引き気味に春月が呟く。
前にも言ったが、この東雲先生には一つの残念要素があるのだ。
それが……。
「……あれだ、厨二病って奴だな」
「それでも、教師に服装が軍服ってのは無いじゃないですか?」
「そこは安心したまえ。授業自体の質には支障無いさ。むしろ、僕はそこが評価されて軍服の許可を貰っているんだよ」
ぶかぶかの服をローブのように揺らしながら、東雲はキリッとした目線で答えた。
実際、彼女の評判は生徒そして保護者共に高い。
「まぁそのお話は後にするとして、よ。まず、この四人で今後の活動内容の確認をするわ」
「活動って言っても、文芸部って何する部活なんですか?」
「……そこからなんだな」
「折角だし良いじゃないか。意思疎通を図るのは活動の一環として第一歩だよ」
先生は黒板前まで歩くとチョークを手に取る。
適当に箇条書きで記していき、白い粉を手元から叩き落とす。
「では改めて。まず、文芸部の今後についてだけれど文化祭を目標に活動していく形になるわね」
「文化祭って、あの夏休み前辺りに行われるイベントですねっ」
「そうだよ。そこで、我々【孤独部】からも一つ活動を行う……具体的には文芸部らしい小説だっけ? 直雪殿」
はい、と頷いた直雪は椅子を引き俺たちを見渡すとカバンから紙切れを取り出した。
「私が普段から書いている小説。例えば、これを文化祭当日に活動報告として展示やら売り出しやらするのよ」
「それについてはまだ未定だけどね……まぁ、こんな形で今後の活動内容は小説を書くということになるよ」
「へー……でも、ゆかは物語なんて書いたことないんですよ?」
「ノープロブレム。問題はないよ……あくまで活動としてだからね。部として何もしないのは原則禁止なんだよ」
イケメン風に微笑んだ先生は、俺に視線を移して言葉を発した。
「孤高殿もこれでいいかな?」
その問いに、一瞬の空白を要した。
小説。
自然と脳裏にかすめる記憶が奥歯を震わす。
「……今回、俺は読む側でも良いですか? 小説を作る側が居れば、感想を伝える側もいなきゃ行けないです」
「孤高君、それは不公平というものよ。一度この部活に入部する条件として勝負をしたじゃない」
「……」
何も言い返せない。
悪くなった空気感を破ったのは、春月の明るい声色だった。
「夕夏先輩、一応孤高先輩は嫌でも譲って部員になってくれたんです。その内の一つくらいは目をつぶってくれませんか?」
「直雪殿は自らの意思を孤高殿に押し付けているじゃないか。なのに、自分は押し付けられたくない、っていうのはおかしい話だよ?」
「……分かりました、ここは一つ譲りましょう。だけれど、部員として感想は聞かせて頂戴ね」
「あぁ……恩に着る。そして、みんなありがとう」
愛想笑いを作りながら、春月がウィンクを送って来るのを視認する。
そう、彼女は俺の心情を把握して話の流れを変えてくれたのだ。
こちらも返しに首を倒して返答すると、服を羽ばかせた先生の厨二病らしい台詞で締められた。
「それじゃあ、この四人で【孤独部】を活動して行こうこうじゃないか。これからも宜しく頼むよ」
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