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5話

「デート、か……」


午後の暖かな日差しを身体に受けながらぼーっとクラス中を見渡している。

 時刻は丁度お昼休み。

仲の良い同士で机をくっつけ談話している者や食堂へ出向いている者など、各々が猶予の時間を過ごしている。


「今日はなんだか騒がしいと思ったら、金曜日だったな」


会話が実っている生徒たちの喧騒は、教室を和やかな雰囲気に包んでいる。

 いつもならば俺もその一員となるべきなのだが、今週は違う。


「直雪の奴、人生年齢イコール彼女すら出来たことない俺をデートに誘うなんて。しかも相手はあの春月……」


自らを嫌っている少女と、どうして一緒にデートへ行かなければならないのだ。

 だが、まだ希望はある。


「そもそも直雪が春月にデートの誘いを承諾させられるとも限らない。今日の放課後まで耐え抜けば……ん?」


ポケットが振動した。

 手を突っ込みスマホを取り出した俺は、表示されていた画面に一瞬固まる。

 がしかし、すぐに昨日あった記憶を回想させると納得いった。


「あぁ……直雪と連絡先を交換し合ったんだよな。確か連絡手段がないと不便だって」


初めての女子が性格難の持ち主ってのだけが残念だが。

 慣れた手付きで指先を滑らせて行く。

起動したアプリから通知文を表示させると、そこにはこう書いてあった。


『日曜日の午前十時、前合わせ場所は遊園地前。夕夏さんと二人きりで会話出来る機会よ。有効活用しなさい』




■□■□




「……」


行き交う人々をみながら、深く息を吐く。

 直雪がどのようなくだりで春月を誘い出せたのかは分からない。

がしかし、彼女の努力を無駄にすることも躊躇(ためら)いがあったため、こうして約束場所に来ていたのだ。


「確か時間は十時だよな……今が九時五十分前後だから、そろそろか」


俺は普段、休日に出掛けることはあまり無いのでお洒落た服装を見繕(みつくろ)うことが出来なかった。

 春先を迎えたこの時期でも若干の肌寒さを感じるためTシャツの上から灰色の薄いジャンバー、下はジーパン。


「それにしてもやけに遅いな、もう後一分程度で十時回るぞ。まさか直雪が約束場所を間違えて……」


「先輩……孤高先輩」


腕時計を確認していた俺の隣から唐突に名前が呼ばれる。

 視線を動かして声の主に目をやった。


「お、おう……春月か。おは、よう」


「はい、おはようです。朝早くから女の子を待たせた言い訳はないんですか、そうですか」


「……待たせた? なにを言っているんだ春月」


時計の針は十時を回ったところ。

 俺が遅れたというよりは、彼女の方が後からやって来たはずだが。


「はい? だから、約束の時刻は九時三十分に駅前でしたよね。いくら待っても先輩が居たかったのでこうして探し回ってた訳です」


「……いや、十時に遊園地前集合だろ? ほら」


アプリの画面を起動して、春月に見せるように突き付ける。

 すると、彼女は目をパチパチ(まばた)き頬を紅潮に染めていく。

顔をプイッと逸らすと腕を組み、微かに聞こえる声で呟いた。


「か、勘違いでした……すみませ、ん」


これはツンデレという奴なのか?

 どちらにせよ、春月の可愛い一面が垣間見れたのだ。

これはこれでよしとしよう。




■□■□




「……で、先輩。女の子とデートする時に言う言葉、忘れてませんか?」


「あ、えっと……」


受付を済ませて遊園地内へと入園した俺と春月は、人混みの流れに任せる感覚で中を歩いていた。

 横一人分空けて彼女と並び進む。

そんな時に突然、声が掛けられた。


「……今日の服装、ですよ。まったく、これだから童貞は気遣い失格です」


「っ……あ、あぁ。春月の服、凄い可愛いと思うぞ」


「お世辞をどうも。ま、孤高先輩に言われても嬉しくないですけど」


少し機嫌悪そうに答える春月に目線を送る。

 無垢な白のブラウスに、桜色のカーディガンと呼ばれる袖と半身真ん中だけ覆われないパーカー。

 下は若青のジーパンで締めくくられており、全体的なイメージとして大人な女性の可愛らしさを作る。


「……一応デートだし、何かに乗るか」


「ですね。寂しい一人者の孤高先輩は、今日だけデート相手のゆかと楽しい思い出を過ごして下さい」


相変わらずの口調だな。

 この空気感は長続きしそうにもない。

適当に歩きながら視線を巡らせる。


「なぁ春月。一つ質問して良いか?」


「……まぁ会話する内容もないですし、良いですよ」


「じゃあ遠慮なく。今日はどうして、嫌いな俺と二人きりのデートなんかに来てくれたんだ?」


「はぁ……それ、まさか孤高先輩。ゆかのことが先輩のこと好きと勘違いしての質問ですか?」


首を横に変えて俺に視線を預けてくる。

 思春期の男子なんてちょろっと女子に話しかけられた程度で、好きなんじゃと考えてしまう。

 そんな思考を見据えての発言とは、中々に男心を理解している。


「そうじゃない。質問の意図、わかってるだろ?」


「一応聞いときました……で、なぜ来たかですか。ゆか、これでも売られた恩は返すんですよ。それが理由です」


つまり直接直雪に頼まれた春月は、断ろうとするもいじめを助けられたことがある。

 それで、今回嫌々でも誘いに乗ったわけか。


「左様で……話は変わるが、春月。ジェットコースターは行ける口か?」


「なるほど、待ち時間にゆかと必然的に会話する時間を設けられると。まぁ良いですよ、先輩を嫌ってる理由は話しませんが」


「それは困ったな」


言いつつも、二十分待ちと書かれた看板の列へと入り込む俺たち。

 直雪が曲がりなりりも機会を与えてくれたのだ。

どうにかして、春月を入部に持っていけるように糸口を見つけなければ。


「先輩に言っときますけど、その容姿じゃ口説いたり惚れさせて話させるのは無理です。諦めて下さい」


「……」


傷口に塩水を浴びせられた痛々しい気分にされた。

 デート相手の、まぁまぁ可愛い後輩から放たれる辛口な言葉。

 何も言えない俺が沈黙を流させる。


「先輩……傷付いちゃいました?」


後ろに手先を組んだ春月は、満面の笑みでトドメを射止めた。

 あの、やっぱりもう帰っていいよね……。

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