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4話

沈みかけた太陽が、薄暗かった室内を更に暗闇に晒す。

 俺と直雪は先程いじめられていた少女と対峙していた。


「あ、あのっ……先程はありがとうございましたっ」


「それは別に気にする必要無いわ。あの女子生徒達が不愉快だったから蹴散らしただけよ……それで、名前は?」


「は、はい。名前は『春月 夕夏(はるつき ゆか)』と言いますっ。教室は一年五組、出席番号は……」


「そこまで言うのか」


突っ込み言葉が漏れる。

 春月と名乗った少女は、はっと口元を手で覆って顔を朱色に染めた。

 短く切られショート髪に、丸っこい小動物的な愛らしさ思わせる碧眼(へきがん)

 直雪は美人系の少女だが、顔立ちから雰囲気まで春月は相対してクラスの男子にモテそうな可愛い系。

 白いTシャツに圧迫され、存在を強調している乳房(ちぶさ)は直雪と比較にもならないほど。

 あれ、今一瞬背筋が凍るような視線を感じたが……勘違いかな?


「まぁそれは良いとして。少し迷惑ながらも端的に聞くわ……春月さん、貴女の素と私は今話しがしたいの」


「……何言ってるんだ、直雪?」


「孤高君は黙っていて。今は私と彼女が喋っているのよ」


俺を一瞥(いちべつ)すると、直雪は顔を真正面へ向ける。

 対する春月は、どう反応するば良いのかと表情に表れていた。


「……ばれちゃいましたかっ? 夕夏が弱いキャラを演じてたの」


「そうね。先程の悪柄の生徒たちが口々に言ってたでしょう? 春月さん自ら男子生徒に話しかけてたと」


「ほぅ、それで夕夏が喋る性格だと見抜いた訳ですか……これは盲点でしたっ」


ピンクの舌を出した春月は、自らの頭をぽかんと叩く。

 俺は突然の変わり身っぷりに言葉を失う。

さっきまでの会話では静かな印象だった。

 しかし、急に声のトークを上げて喋り出した彼女の印象は打って変わって、生き生きした少女。


「待ってくれ春月。それだと、なぜ俺たちや先程囲まれてた時には弱いフリをしていたんだ?」


「それは……その。色々と、ですかね」


歯切れの悪い口調。

 その様子に首を傾げるも、次いで言葉を発した直雪に意識が移される。


「まぁそれは個人の事情よ……それよりも一つ私から質問をしても良いかしら、春月さん?」


「いいですよっ。というか直雪先輩、ゆかのことは『夕夏』で呼んでください。あ、でも孤高先輩は辞めて下さいね」


わざわざ名指しとは心が痛むな……。


「なら私のことも直雪じゃなくて『今宵』でどうぞ……で、早速だけれど夕夏さんはぼっちかしら?」


「ズバリ聞くんだな」


「えぇ。まだ勝負の件は終わってないわ……それで、夕夏さんはどうなの?」


「そうですね……あの状況で助けに来る友達が居ないって意味では、表面上の付き合いですね。つまり独り身です!」


笑みを浮かべて親指を立てる春月。

 いや、ぼっちを嬉しそうに報告するのはどうかと思うぞ。


「そう、なら決まりね。夕夏さん、私たちの部活【孤独部】こと文芸部にようこそ。今日から貴女も部員の一員よ」


「……なるほど、ゆかをこの教室に来させたのはこの為ですか。うん、楽しそうですっ。入りますッ!」


「早いな、おい……」


入部届けの紙を鞄から取り出した直雪は、春月へと渡す。

 時計に目をやると既に六時台を超えており、帰宅しようかと席を立ち出口へと向かう。


「こっちの負けだ。これで明日から俺もこの部活に入部させられる訳か」


「あら、意外と飲み込みが早いのね。まぁ後先引きずる男性は嫌われるから潔い方が――」


「えっ……孤高先輩も部員なんです、か?」


直雪の話に被せて春月の声が発せられる。

 気のせいか声色のトーンまで低くなり、雰囲気が緊迫感を巡らす。


「そうよ。というより、逆になんで孤高君が部外者なのに空間にいたのかが不可思議に思わない?」


「そう、ですね……なら。嫌、です。ゆか、孤高先輩が部活に所属するならお断りします」


『……は?』


口を揃えて二つの声色が、教室内に響いた。

 



■□■□ 




「俺って、そんなに嫌われているのか……」


あの後、春月は扉の前に立っていた俺を抜かし早足で校舎を去った。

 唯一部員候補の人材。

このことは直雪も不自然に思ったのか、放課後いつもの教室に集合を出して緊急会議を行なっている。


「孤高君、前から夕夏さんと認識は……無いわよね。となると、やはり顔面が最悪だったのかしら?」


「……本気で不登校になるから辞めろ。思ってても、心の中で呟いてくれ」


女子に泣かされそうになったのは初めてだ。

 目頭を制服の袖で拭く仕草をすると、改めて今回の件について思考してみる。


「春月は普段から男子生徒に話しかけてた。つまり、この時点で顔立ちや男が苦手などの理由じゃない」


「そうね。とするならば……いえ、分からないわね。本人にやっぱり直接聞くしかないわ」


視線を床に落としながらうなる直雪。


「確かクラスは1-5って言ってたな……明日でも押しかけてみるか」


「えぇ、そうしましょうか」




■□■□ 




「……」


「……」


室内に流れる沈黙は、二人の者達によって作られていた。

 

「ごめん、俺のせいで……」


「いえ、私の責任でもあるわ」


どんよりとした雲模様が空間を灰色に染め上げる。

 昨日直雪と練った案はことごとく失敗した。

ある休み時間。

 彼女と二人で、春月の教室へと訪れたのだがここが間違っていたのだ。

 直雪の存在に気付いた彼女は手を振るも隣の俺に目線を移すとすぐさまそっぽを向き、応じなかった。


「これはどうすべきか……」


「ね、孤高君。今日は木曜日でいいのよね?」


「ん、あぁ……そうだが」


「ありがとう。なら丁度良いわ」


口元を緩ませ顔を明るした直雪。

 どうしたんだろう、と言う感情と共に少しだけ心がおどる。

こういう表情の彼女は可愛くてつい顔を逸らしてしまう。


「……で、どうするつもりなんだ?」


「ふふっ。それは……夕夏さんをデートに誘うのよ」

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