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3話

「それにしてもやっぱり人を集めるってのは難しいよな……あ、違ったか」


「簡単に勝敗が決まっては面白くないから、返って良いんじゃないかしら……はい、揃ったわ」


満足そうな表情を浮かべた直雪は、テーブルに散乱しているカードを二つ裏返す。

 すぐに肩を落としてため息をつくと、俺へ譲るように手の平で進めてきた。

 

「次は俺の番だな……でも、このままだと部活自体が設立出来ないんじゃないか? これも違う……」


「それをどうにか解決するために、こうして集まったのよ……ふふっ、また私ね」


連続で三回一気に同じ絵札を当てた直雪。

 俺が揃えた数は数個。

対して勝ち誇った顔を見せている目の前の少女はというと、山盛りに積まれたカードの束が。


「なんで神経衰弱で大差開いているんだ……?」


「運も実力のうちと言うでしょ。それに、孤高君の頭が単に弱いだけじゃないかしら」


さらっと人を傷つける言葉を呟けることに関してだけは、凄い才能だ。

 黙々と続けられること数分。

机に残った最後の二枚を奪われ、勝敗は決した。


「私の勝ちね」


「……素直に負けを認めよう。がしかし、そもそも学校でこんな遊びをして良かったのか?」


「暇つぶし程度よ。それに、友好を深めるという部活動の一環として見るならば問題はないわ」


敗者の俺が全てのトランプを集めて片付けた。

 電灯が働かず灰色に包まれた室内。

時計の針は、もうすぐ午後五時台を差す。


「ならいいんだが。それより、結局部員をこのまま増やせなかったらまずいんじゃないか?」


「えぇ……今は設立までの期間猶予を与えられているけれど、そう長くは持たないわ。何かこう出来事が――」


直雪が言いかけたその時。

 声に重なるようにして扉越しに廊下から、まるで鉄を力一杯蹴りつけたような物音が教室内に響いた。

 



■□■□




手元にはカバンを下げ、ゆっくりと校舎を進む二人の影。

 何事かと思った俺たちは、好奇心に押されて音のした方向へと歩んでいた。


「確かにこの方向だったわよね……」


「あぁ、俺もそうだと思う。なら、この辺りを散策すれば……ん? 直雪、あれじゃないか」


気配を殺し壁から身体を半分だけ出してそちらに視線をやると、怒鳴り声が聞こえて来た。

 俺に倣って直雪も顔を覗かせる。

下駄箱が並ぶ玄関の一角で、状況的に数人の女子が一人の女子生徒を囲んでいるように見える。

 

「――本当にキモいんだけどッ。男子一人一人に挨拶回りとか言いながら、色目売ってるとか」


「――ち、違うんです……私はただ、みんなと仲良くしたくてっ」


「――それは言い訳にもなってないっしょ。はっきり言って、あーし達が迷惑してるの。辞めてくれない?」


囲んでいる方は、スカートが短かったり、胸元がオープン状態になっていてどう見ても柄が悪い。

 対して、迫られている女子生徒は決まって目立つような服装ではない。

しかし、その両者が共に男ウケ良さそうな顔立ちをしているのは間違いないだろう。


「――それは、その……」


「――うっさいんですけど。もう我慢出来ない、あーしらで一回その根性を叩き直してあげるよ。物理的に」


「――あわ、それ天才。男に色目を使う奴なんて最悪だし、更生する機会には良いかもね」


じりじりと一人の女子生徒に詰め寄っている複数の女子達。

 危険を察知した直雪は、一度こちらへ視線を送ってすぐさま物陰から姿を現した。


「あら、そこの生徒達? こんな時間帯に、人気のない場所でよくそんな弱い者いじめが出来るわね」


「……あッ?」


突然の訪問者に警戒心の色を込めた睨みで返す女子達。

 そんなことを気に留める様子も無く、直雪は詰め寄って行く。

 俺はというと、自ら情け無いと思いながらも壁から覗くようにして一部始終を見届ける。


「耳が遠いのかしら……まぁいいわ、複数人で一人を標的にすることで優越感に浸っているとか。まさに外道ね」


「それ、あーしらに言ってんの? まじで校内全員を敵に回すよ」


「えぇ、私は既に学校内の女子生徒達に嫌われているから問題無いわ。皆私の美貌(びぼう)に嫉妬しているだけに可哀想ね」


「……調子あんま乗ってると、あんたもただじゃおかないよ? あーしら、本気で怒ると生徒一人ぐらい退学くらい可能――」


「なら、ここまでの会話を動画で提出すれば良いだけよ……ね、こんな風に?」


言って、直雪は手元に今も録画が回っているスマホを見せつけた。

 すると、予想外の展開に戸惑いの色に染まる女子生徒達。


「そっ、それを学校にバラしたらあんたどうなるか分かってんの?」


「だから取引よ。そこの一人迫られてた女の子を今後、このようなことに巻き込まない。それを飲むなら、この録画は消すわ」


ポチ、と終了ボタンを押すと画面から動画の消去ボタンをチラつかせる。

 顔面蒼白した女子生徒達は、口々に頷くと一瞬先程責めてた生徒に目をやるときびすを返して帰って行く。


「あ、あの……っ」


「気にしないで。それよりも、数分もしない内に物音に気付いた教師がここへ来るわ。少し付いてきてくれるかしら?」


冷たそうな口調で言い放った直雪は、腰を曲げて縮こまった一人の少女へ手を差し伸べる。

 

「……何も出来なかった、か」


ことの成り行きを観察し終えた俺は、胸内で舌打ちすると唇を噛んで短く嘆息した。

 情け無い自分自身に吐き気がする。

それはなぜか。


 あの状況下にも関わらず、堂々と出て行った直雪と比べて俺は最後まで動かずにいたから?

 それとも、人との関わりを意図的に断っているのにこうして興味本意で現場にとどまったから?


「……違う」


首を横に振る。

 直雪は自らの評価が下がる、つまり嫌われるリスクを冒してまで行動出来たのだ。


「本当に、最近はろくなことが無い」


俺は、まだ何も変われていない。

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