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2話

「文芸部か……」


黒板に無機質なチョークが打ち込まれ、それを書き写すために走らされるペンの音色。

 朝の日差しを受けながら俺は(ひじ)を机の上につき昨日のことを思い返していた。


「結局あの後無理矢理入らされた上に、今日の放課後は一緒に部員集めか……」


色々と質問をしたかったのだが、既に時刻が六時台を回っていて帰ることを選択した。

 直雪(なおゆき)か。

学校一の美少女に声を掛けられて男ならば普通心が弾むに違いないんだけどな。


「強引さゆえに嫌われ者。目立ちたくない俺にとっては、厄介神でしかないぞ……」


密かにため息を吐くと、視線を前に向けて授業を受けた。




■□■□




昼間の太陽は傾き始めて、校舎が薄暗くなっていく。

 カバンを肩に掛けると集合場所である一階奥へと足を運んだ。


「……あら、こんにちは? いえ、さようならの方が正しいのかしら」


電気の付いていない教室の扉を開くと同時に、皮肉を込めたような口調が飛び出てくる。

 

「それならこの部活に俺は入らなくて済むな……それじゃあまた――」


「冗談の一つよ。孤高(こだか)君は今この場所に一人美少女を置いて帰るのかしら?」


俺の言葉に遮るように声を重ねてくる直雪。

 教室に背中を向けていた身体をくるりと回転させ、適当に散らばっている椅子を取り出し座る。


「分かった、降参だ。というか、自分で自分を褒めるのはどうかと思うぞ」


「あら、それは事実でしょ? 別に何もためらうことは無いわ」


「左様ですか」


流れる沈黙。

 俺は話を変えようと、昨日のことについて深掘りしてみる。


「それで、またどうして俺を選んだ? いや……別に人数さえ確保出来れば良かったとかか」


「えぇ、全くその通り。けれど、正確には一つ違う。孤高君はこの部活に入部する条件が揃っていたのよ」


肩まで下されている髪の毛を揺らした彼女は、自身げな顔を見せて来た。

 条件なんて初耳だ。


「というと?」


「ここの部活の名前は覚えているわよね、部員として」


「無理矢理入らした本人が言うなよ……ま、おかしなネーミングセンスだから覚えてる。【孤独部】だったよな?」


「顔とは違って頭は良い方なのね。その名前がまさしく条件よ」


おい、地味に俺の心が傷付けられたぞ。

 一応自身では、イケメンではなくともクラス内から二人には告白される程度の顔立ちはしていると思う。

 平均身長、黒髪ショート清楚系男子を(よそお)って、清潔感や校則に違反するようなことはしない。

 でも、目の前にいる美少女相手からすれば俺なんてチリと同レベルなのかもな。


「……で、その孤独ってのが条件なのか?」


「そうよ。誰も来ない放課後の時間に、こんな場所を歩いている生徒なんてぼっちとしか考えようがないわ」


「それって直雪自身もぼっち……いいえ、なんでも。大体は理解した。それとあと一つだけいいか?」


殺意を込めたような目線が飛んできたので、少し言葉に詰まった。

 彼女が一拍置いて首を縦に首肯する。


「質問を許すわ。それで、どうぞ?」


「じゃ、遠慮なく。直雪はなんでこの部活を設立する訳に至ったんだ?」


「確かに、それは話したくべきね。私は美人がために、クラスから孤立しているわ」


「それは知ってる」


「……会話を交える相手もいない。だから、休み時間暇な私は趣味で小説を書くことにしたのよ」


小説……。

 その言葉を耳にした瞬間、俺は反射的に顔がこわばるのを感じる。

 自然と握り拳を作り力が入った。


「っ……そ、それを部活動としてもしてみたいというのが理由なのか?」


「端的に言えばそうなるわ。やっぱり、感想を言い合える人達がいた方が良いと思うの。一人書くだけじゃ、つまらないわ」


俺の緊張具合に気付いた様子も無く、淡々と言葉をつづる直雪。

 脳裏に浮かぶ過去の記憶。

ふー、と呼吸をしそれを払拭するように首を振る。


「……なるほど、一応は理解出来た。だが、俺は小説を書かない。それを条件とするなら籍を部活に置く。いいな?」


「何を理由になのかしら。私が部活を始まる動機を説明したのだから、孤高君も言うのが筋なものよ?」


「……言えない。人にはプライバシーの権利ってのがある。それに、部活自体率先して入部したい訳でもない」


毛色の違う、真剣な眼差しで目の前にいる直雪を射止める。

 雰囲気が変化するのを感じ取ったのか、彼女は顎に手を当て考え込む。


「それも、そうかもしれないわ……ならこうしましょう。私は孤高君に入部して欲しい、逆に貴方は離籍したいと」


「あぁ、その通りだな」


「孤高君、一つ私と勝負をしないかしら? 勝った方の意見に決める。それならば、揉め事もなくて良いわ」


直雪は窓際を背後にもたれ掛かる。

 オレンジ色に染まった夕陽が、彼女を後方から照らし上げた。


「それは面白いかもしれないな……賛成だ。でも、実際の勝負内容はどうやって決めるんだ?」


「あら、この部活の目的は忘れたのかしら」


「……ぼっちを勧誘する、か」


「えぇ。どちらが先に、部員を加えることが出来るか。その内容で良いわね?」


白い肌の指先を唇に当てた直雪は、挑発的な笑みを浮かべる。

 その仕草に一瞬ドキッと鼓動が打ち、視線が釘付けに。

手で頬を軽く叩いて切り替えると、口元を緩ませ不敵に言葉を放つ。


「了解した。手段は金銭取引と脅迫以外ならば許容、勝ち負けは早い順。乗ろう」


「お手並み拝見ってところね」


閑散とした校舎の一室で。

 二人の熱い視線が、交わし合った。

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