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文芸系の小説

なれた。

作者: 蜜柑プラム

 私はシャワーを浴びて、今日一日の汗を洗い流す。この季節になると、服を脱いでからシャワーに当たるまでに体が冷える。だから始めにヘッドを持ってシャワーを両肩に当てて全身に湯を伝わせる。体が温まったら、ヘッドを上のホルダーにセットする。目を閉じて顔にシャワーを当てる。シャワーの勢いが程よい刺激になってリラックスできる。この瞬間が好きだ。しばらく続けていると頭の中も洗われるようだ。そしたら楽しいことを考えられる。

 あのキッチンカーのあのお弁当は美味しかったな。明日はあのお弁当のあれをましてもらおう。あのラノベの主人公があの執事ともっと近づけば楽しくなりそうだな。あとで、作者に希望を出してみよう。あのラノベは男性貴族に転生してすったもんだして楽しかったな。男性か……。

 私は自分の小さな胸を手の平で触ってみた。同僚のあの男性はいつも楽しそうだな。誰とでも仲良くなれて楽しそうだな。明るい性格で楽しそうだな。爽やかな笑顔で楽しそうだな。なれたら楽しそうだな…………

 なれた。

 シャワーが顔から離れて胸板に当たる。目を開ける。浴室の鏡を見る。あの同僚だった。顔をぺたぺた触りながら鏡をまじまじと見る。こういう時のよくある展開のやつは今回は飛ばそう。

 だらだらシャワーを浴び続けるのが自然と嫌になって浴室から出る。服が無い事に気づく。寒さをあまり感じなくなったから、これはこれで楽しいと思って裸のままでいた。ビールが飲みたくなったが、冷蔵庫にはビールが無い。じっとしているのは嫌になるから、コンビニに行こうと思った。でも服がない。この服が着れるさっきの私に……。いや私になっても楽しくない。同期のいつも明るいあの子になれたら楽しいだろう。

 なれた。

 衣装棚を開けて着る服を選ぶ。気に入る服が無い。どれも地味だ。何か着ないと寒かったので、当たり障りのない服を着た。お腹が空いてきたので何か料理をしようと冷蔵庫を開ける。食材がほとんどなかった。全然かわいくない上着を着て、家を出てスーパーに向かった。

 夜空を見上げながら上着のポケットに手を入れて歩く。彼氏が欲しいなあと思う。可愛い服が欲しいなあと思う。お給料少ないなあと思う。あの先輩嫌いだなあと思う。

 向かいからやってくる人が二匹のダックスフンドを連れて散歩をしている。二匹のダックスフンドはお揃いで赤と青の色違いのペットウェアを着ている。可愛いなあと思う。あんなカップルになりた――待って!

 待たない。

 なれた。

 視界が地面すれすれになった。視界が明るくなった。ぺちぺち歩く。歩くのがとても楽しい。きょろきょろしながら歩く。舌を出しながら歩く。歩くのが楽しい。電信柱を見つけたから走る。用を足すのが楽しい。やりたい事が無くなって、その場に座り込んだ。夜空を見上げた。月が大きくてまん丸で綺麗だ。月を見ながらワンと鳴いてみた。あの月になりたい。

 それは無理だ。

 無理だった。どうやらルールがあるらしい。あ、流れ星。嬉しくてワンと鳴く。綺麗な流れ星に……、どうせ無理だって言うのだろう。なら、ルールをつくってる奴になりたい。



 なれた。


 私が何にだってしてあげよう。あなたが望むなら何にでもだ。私はあなたが何になりたいかを知りたい。あなたがどうしたいかを知りたくて耳を傾けてる。ディスプレイから目をはなして時計を見る。文字数が少ないのが気になるけど、明日早いからそろそろ投稿しよう。

 また明日楽しい事を考えよう。



<了> 蜜柑プラム


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― 新着の感想 ―
[良い点] 男性ですので序盤のシャワーは読んじゃ不味いんじゃないかと焦ったのは秘密です。 [気になる点] 私は誰にでも成れる、何でも成れる、神にも成れる。 [一言] 最後の「兼業作家」であろう視点が現…
[一言] 好きなやつ!♪( ´θ`)ノ これはイイ!
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