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死にたい私たちの救済  作者: ゆづにゃん
異常な彼女と不思議な死神
8/18

008 本当に求めていたモノ

鎌の先端から零れ落ちる血が、道路に血痕を描く、はっきり言って派手にやりすぎてしまった。

掃除がめんどくさい事この上ない。

まあそれは置いといて...


「レナは逃げ切れた...と思うけど...何処に行ったのかな」


正直何処に行ったのか見当がつかない。

こういう時いつもなら...電話すればいいんだけど...

(もう一か月近く帰ってないからなぁ...)

まず怒られる、その後すぐにこの場所まで誰かしらが送られてきたそのまま下手すれば監禁されかねない。

ぶっちゃけそれが嫌でこんな風に時々家出しているわけだし。

けどまぁ...


「背に腹は代えられないか...」


仕方なく携帯電話を取り出し、一般人が間違えないための18桁の数字を入力していった。

少しするとプルルルルと音がして...


ガチャッ


「あ、もしもッ...」





『何処ほっつき歩いてんのよぉこんのクソ馬鹿がぁぁぁあ!!!』





死神の鼓膜を破らんとばかりの絶叫が死神の脳内を駆け巡る。

正直この時点で電話を切りそうになった...がギリギリ踏みとどまる。


「や、やあミライ?...久しぶりだね。ま、また一段と綺麗になったね」


『姿も見てないのに何が分かるのよこのクズッ!...あんた分かってるの?あんたがいないだけであたしがどれだけ苦労をしてるかッ!?』


「あ、あははは、ご苦労様です、ところで少し調べてほしい事が...」


『.....』


「あの...ミライ?聞いてる?」


『...皆さん緊急放送です、あの馬鹿が見つかりました場所は千葉の鎌ヶ谷、捕まえた人はどうぞご自由にッ!殺すなりサンドバックにするなりペットとして飼うなり好きにして構いませんッ!』


「ねぇミライッ!?何物騒な放送流してるのッ!?...てか話を聞いてッ!」


話を聞いてくれない、ミライにレナの居場所を特定してもらおうと思ったのに..この様子じゃかなり時間がかかりそうだ...


とはいえほとんど自業自得だから文句も言えない。

困ったなぁ...なんて苦笑いを浮かべた...



―その時



真夜中に響く、不快な音...

その音はあまりにも大きく、体の芯から揺らすような不快感を与える。

だが、その音を聞き取れていたのは...死神だけだった。

半殺しにした意識のある人間は、不快な音など意にも介さず、聞こえてもいないかのように化け物でも見るかのようにこっちを見続けて、怯え続けている。


「これは...」


その鐘の音は聞き覚えがあった。


「ドーラ―の鐘?...まさかレナッ!?」


ドーラ―に、願い事を口にするような自殺者。

それもこんな近くでとなると...彼女以外全く思いつかない。


「おい、どうす...ってもういねぇ...仕方ねぇ、片づけは俺がしとくか」


人魂が語り掛けるよりも早く死神はその場から消えていた。

真っ先に向かうのは、初めて彼女と出会った場所、彼女ならあの場所にいる可能性が高いはずだ。

駆られる焦燥感、だが一つだけ確信もしていた。


彼女は自ら死ぬことは無いだろう、と。


死神は彼女に一つ杭を打ち付けた、それは彼女の正義感を見越して、彼女を死に逃がさないための楔。


彼女は学校で何度も虐めを救っている、それは一般人にはそうそうできる事ではない、まあ要するに異常なほどに正義感が強いのだ。

なら、『人の嫌なことをする』それ自体を嫌悪しているのではないのかと思った...

なら、僕は人間ではないけれど...例え死神だとしても、迷惑になると自殺を踏みとどまるんじゃないか...


今思えばそれは、実に浅はかな行為だった。


死神は見誤っていた、彼女が他人の重荷になる事への嫌悪感を...





(よかった...)


出会った場所であるビルには、レナ以外の姿はなかった。

そしてレナ自身もただ、何の変哲もなくビルの手すりから空を眺めているだけ。


「レナ...」


声をかけようとゆっくり屋上に降りた死神に、彼女は振り向きざま...


まるで化け物でも見るかのような瞳で...


言葉のナイフを突きつけてきた。


「...嘘つき」


「嘘つき?...酷い言い草だね」


「本当の事でしょ、死神は願いを叶られる、私の事だって本当は助けれたんじゃないの?...」


「.....待ってレナ、もしかしてほかの死神とあっ―」


「そんなことどうでもいいッ!!」


その言葉は、甲高い悲鳴のような嗚咽のような言葉が遮った。


「.....」


「私の...苦しむ姿を見て、ずっと楽しんでたの?」


ぽつりとつぶやかれたその言葉。


「何言ってるの?...僕はそんな事...」


「じゃあ、どうしてあの死神には私の願いを叶えられて...あんたには何もできないって言うのよッ!!」


涙を零し喚き、うるさい泣き顔、その瞳は死神を鋭く睨みつけている。

だが、そんなことはどうでもいい、と。

死神は、今にも殴りかかってきそうな臨戦態勢なレナの前に無言で近づいて...


「近づかないでッ!」


その孤絶ごと黙らせるように思いっきりその頬を...


「むゅッ!?」


両手で挟み込んだ。


「レナ、君は死神に...願ったのか?」


レナの瞳を覗き込む死神の瞳には確かな、怒りが見て取れる。

いつも、のほほんとした死神の初めて見た余裕のないその表情に、静かに息を飲む。


「.....」


「答えてレナ、君は一体何を願ったんだ、いやそれ以前に君は...本当に死神に願い、対価を払ったのか?...」


「私がどうしようと、私の勝手でしょ...」


「一体何を願っ―」


「だからッ!私の勝手だって言ってるでしょ...しつこいのよ...そもそもどうしてあんたは記憶が残って(・・・・・・)...」


最後にぼそりとつぶやいた小さな言葉、すぐに失言だと気付き口を閉ざしたが、既に遅い。

死神はしっかりとその言葉を聞いていた。


「まさか...記憶を消したのか?...家族だけ...いや、それとも―まさか...君を知る人間全て?」


「.....」


その予測は、レナの無言が明らかに肯定していた。


「一体...何のために?...」


彼女は、レナは確かに家庭環境はいい物とは言えなかっただろう。

だけれど、それ以上に友人に恵まれていた。

だったらどうして、そんな友人全てを捨ててまで家族との縁を切る理由があったのか。


「僕はこの一週間、ずっと君の事を探っていた」


彼女の口から聞けないのなら、周りから聞くしかない。

仕方なく人間に受肉してまで調べつくした。


「君のクラスメイトは、誰一人君の事を悪くは言わなかった...素敵な人、完璧な人、面白い人、恩人だとまでいう子もいた、皆君を、レナがいる事を求めていたんだ...なのに当の本人は簡単にそんな関係を、友人を切り捨てた」


「.....」


「ねぇ...どうしてそんな事ッ」


「あんたに...あんたに何が分かるのッ!」


押さえきれない感情の奔流が、心の堤防を破壊して口から言葉が溢れ出す。

私の気持ちも理解せずにずけずけと踏み込んでくる死神に、怒りが溢れ出す。


「クラスメイトの子達が望んでるのはあたしじゃないッ!...あたしが作り出した優しくてかっこよくて皆が望んでることをしてくれる皆の理想的な完璧な超人!...そんな人、いるわけないじゃないッ!」


今まであの異常な友人活計を続けていた彼女の本音が、零れ落ちていく。

張り付けていた優等生のメッキが剥がれ落ちていく。


「オタク文化なんて知らないッ!難しい本なんてわかんないしッ!映えとか、奥ゆかしさとか...分かるわけないじゃん!...けど皆が私にその理想を押し付けてくる...だから努力した、アニメもTwitterもインスタも、小難し本だって...頑張った、親が子供に望む勉強だって頑張った...そしたら皆私を必要としてくれると思った...―けど違った」


「...実際に必要としてくれてるんじゃないの?...」


「皆が必要としてくれるのは、結局私じゃない、私が作り出した、作り上げた私というナニか...みんなが笑っている所に本当の私はいない...誰にも求められていないのなら、生きてる意味なんて、ない...」


彼女は気づてしまったのだろう。

誰かが求めるものに答えようと、皆の理想の姿を追い求めれば追い求めるほど、本当の自分が消えていく。

学校という閉鎖空間において、同年代の生徒達と笑いあうために、自分の興味のない話で盛り上がって興味のない趣味を頑張って、さて一体ここのどこに本当の私が、私の意思があるのか。

辛かったのだろう、苦しかったのだろう。

一度始めてしまった、背負ってしまった期待を無視することは出来ない。


(むしろ...これで、よかったのかな...)


これでようやく彼女は全ての重荷を外すことが出来たのだ、今目の前にいるの本当に嘘偽りのないただのレナ。


だから僕も、本音を口にした。


「僕は...君の事が嫌いだ」


「.....」


「君は自分の事を大事にしない、第一に考えない、まず他人を第一に考える、だから嫌いだ」


記憶を消して、ようやくやり直せる?...わけがない。

僕が許せないのは記憶を消したことじゃない、他人のためと、責任感のない親が楽に離婚する為にと、自分自身を犠牲にして、自分自身の何かを対価に支払った事。

それがどうしようもなく許せない。

けれど、その選択は優しい人間としては間違ってはいないのだ。


「―けど、僕はそんな君を美しく思うよ」


他人のために自分を犠牲にする、実に美しい自己犠牲。

それは実に素晴らしい事なのだと思う。

けど、こんな事二度とさせてはいけない。

深く深呼吸をして、優しい声で問いかける。


「なあレナ...レナにとって人に求められることが人生においてなによりも一番大事な事なの?両親に、他人に、求められるだけを望むの?...君は、それ以外は何もいらないのかい?金も趣味も、愛も...人生において誰もが大切に思って、大事にしていくモノが君にとっては全て価値がない事なの?」


「ち...違う...」


「誰かに求められなければレナには、人間には価値がなくなるの?それなら理想のレナを求めるクラスメイトは価値が無いただのゴミだったの?」


「そんなわけないッ...」


「ならどうして捨てたんだ?レナは死神に願い対価を払った、それはこれからの人生全てを棒に振る行為に他ならないんだよ?」


「.....」


「ねえ、レナは一体何が欲しいの?」


求められる事は人生において全てなのか?


彼女は否定した。


求められない人間には価値がないのか?


彼女は否定した。



ならば彼女は一体、何を望んでいるのだろうか?



「私は...」


頭が混乱する。

ぐちゃぐちゃに混ざり合って気持ちが悪い。

私は、そもそもなんで自殺を考えたんだっけ?

家族に望まれていなくてそれが嫌で...でもそれがすべてじゃない。

学校の皆を騙していた事?...そうじゃない。

私は―みんなが望むから...ただそれだけで...


「誰かじゃない、大事なのは君がどうしたいのかでしょ?」



私は...私は...―



「分からない...私は、何がしたかったの?」


「レナの事は、僕には分からない...君の事は君しか知らないんだから」


「私は...私は...」


「ゆっくりでいい、君の願いを教えてくれ...僕は死神として君の願いを叶えよう」


思い出す、ずっと昔から心の奥底からの願い。

ずっと、誰かと仲良くしゃべりたかった。

家族で仲良く笑っていたかった。

親友や友達が欲しかった。

けど、誰も私を必要とはしてくれなかった、誰もが素の私の事を邪魔もののように扱う。

家でも学校でも公園でも、中学校になってもそれは変わらなかった。

だから壊した、私自身を、周りじゃなく自分が悪いんだと思い込んで...

中学二年の後半、夏休み明けから皆の望む私を作り上げた。

そしたら友達が、友人が簡単にできた。


―けどすぐに気づいてしまった。


結局何処にも私はいないんだと、私の居場所は何処にも、この世界中のどこにもないんだって。

だから、私は学校の皆を、家族を言い訳に自殺を考えた。

そうすれば、生まれ変われたら今度こそ自分の居場所があるかも...なんて淡い期待を抱いていたんだ。



「私は...私が取り繕わなくても、ただ当たり前にいられる居場所が...家族が...友達が欲しい...そんな当たり前が欲しいッ...」



特別じゃなくていい、尖ってなくていい、異常じゃなくていい、望み通りじゃなくていい...ただ居場所が欲しい。

涙を零しながら、他人から求められる事だけを望んでいた少女が、初めて他人に求めた。

その事実に死神はにっこりと笑いながら...


「承りました、僕は君の願いを叶えましょう...」


それでいて悲しそうに、苦しそうに死神は小さく呟いた。


「対価は...君の体を貸してもらうね」


こんどは優しく、彼女の胸に手を置いた。

その手は、レナの体をまるで水面のように波紋を起こしながら優しく、いともたやすく貫いた。

レナ過去編終了だよぉ~次回、ようやく本編の方に行けるよッ!

一応これ異能とかあるバトルありありの小説だからねッ!

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