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死にたい私たちの救済  作者: ゆづにゃん
異常な彼女と不思議な死神
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007 救いの糸

人通りが少なく、今は廃れた商店街を切れかけの街灯が照らす暗闇の中、私は一人ただ走っていた、ただ駆け抜けていた。


誰かなのか、それとも私自身が聞いた幻聴なのか分からないけれど、言われた通り走っていた。

意味もなく、走っている。

何の理由もなく、何処に行くつもりでもなく...自分は一体何のためにこんなに必死になっているのだったか...そんな理由すらも忘れてしまった...ただ走らないと...逃げないといけなかった気がする。


(...そうだ、逃げないと...)


『何から?』


(家族から...)


『いったいどこまで?』


(...あの世まで...)


『死神に迷惑をかけるよ?』


(知らないよ...)


『苦しむよ?』


(...知らない...)


『救いなんてどこにもないよ?』


(.....知らないッ...知りたくなんか、ないッ...)


『私は知ってるよ、死神に聞いたでしょ?自殺者がどんな運命をたど...




「うるさいなぁッ!!」




頭の中の声から逃げるように階段を駆け上がり、無意識のうちについていたビルの上で麗奈は声を荒げた。

脳内に、嫌がらせのごとく響き渡る私の声を払拭するように叫び上げる。


「さっきからうるさいッ!...私が一体どうなろうと...別にいいでしょ...」


これは幻聴、私が思っていることが頭の中に流れているだけ。

いくら心が、思いが、叫び上げようと、言動と行動が一致しない。


私は、もう壊れかけているんだ。


いや、もうとっくに壊れているのかもしれない、生物として死に対して恐怖を感じるようにできているはずなのに、それを望んでいるというのは...生物としての欠陥なのだろう...


そう、死を望むのは欠陥で、罪.....本当にそうなら、やっぱり私は...


「ねぇ...神様...もし、本当にいるのなら...」


教えてほしいことがあるんです....


自殺が罪だというのならば、苦しくて辛くて悲しくて、逃げて逃げて逃げ続けることが罪だというのならば...


「どうして...人間に...感情なんてモノを作ったんですか?」


こんなモノがなければ、こんなに苦しい思いをしなくてよかった...

こんなモノがなければ私は、そもそも自殺なんて考えなかったのに...

もし自殺が罪じゃなければ...死神が私の前に現れなければ...


「...こんな...苦しまなくてよかったのに...」


本当は死にたくない。

あの世でも苦しめられたくなんてない、このまま殺人鬼にでも出会って殺されたい。

そうすれば自殺じゃない、他殺になるから苦しめられることは無いのに。

そうなれば死神にも迷惑をかけない...

私が死んだことで色々と面倒をかけてしまう事もなく...運が悪かったで片づけられるだろう。


けど、そんなまぐれは起こりえない。


(私は...どうすればいい?)


どうすれば誰にも迷惑をかけないでいられる?

ビルの屋上から、そんな疑問を光が照らす明るい街並みにそっと投げかけてみるが...

誰も、私には目をくれることなく歩き去っていく。

この光景と同じ...


誰も私を見てくれてはいないのだ...



「お嬢さん」



そんないらない私に、声をかけたのは...

この場所で声をかけてきたのは...白いコートを羽織り、その手には黒く禍々しい鎌を手にしている...


2人目の死神だった。


「死..神?...」


そいつは気だるそうに、暗闇の中その顔は見えなかったが、確かに、不気味に笑っていた。


「死神、だと?初対面のはずだがよく分かったな、そう死者の神、死神だ。現世においての魂の管理者、言い得て妙だが人間達はそう我々を認知しているのだろう?」


「.....」


「実際のところそんなものではないのだろう、いうなれば死神は、魂の簒奪者とでもいうべきか...それもまた少し違うような気もするが、まあいい。下らぬことを思考するよりも私は自分の仕事を全うするとしよう」


暗くやる気のない声を発した死神は、手のひらに紫色に発光するナニかを静かに浮かべた。

怪しく光るその洒落た鳥かごのようなものは怪しく光り輝きながら、私を誘っているかのように不規則に動き回る。


「私は死神、名をWE...さあ、願いを言え」


WE?英語で私達?...

そんなことが一瞬だけ脳裏によぎるが、その事よりも重大な言葉をしっかりと捉えていた。


「...願い?」


「死神とは本来、貴様らと取引を行い願いを叶えるモノだ、当然対価をいただくがどんな願いでもかなえられる、どんな苦しみからも解き放ってやろう...どうせ死ぬ気だったのだろう?ならば恐れることなど何も無い」


「死神は...本当に願いをかなえられるの?」


「当たり前だ、一応文字に神がついている存在なのだからな」


「じゃあ...願いを叶えてくれない死神って...」


「...酔狂か享楽か...物好きな死神がいるものだな」


「ッ...」


...ああ、やっぱり私はずっと遊ばれていたんだ。

人とは違う生き物、相いれられるわけがなかった。

少しでも頼りにしていた、言葉を聞いていた私がいけないんだ。

勝手に期待して、勝手に裏切られて...


(やっぱ馬鹿だなぁ...あたし)


全て消してしまいたい、あたしという存在そのものをぐちゃぐちゃにぶっ壊してほしい。


それなのに...


...どうしてッ...頭の中で、あの死神の悲しそうな顔が...浮かび上がるッ?


「さあ、自殺を考える傲慢なる罪人よ、お前の願いを口にしろ」


けど、そんなことはいつの間にか気にならなくなってきた...それ程までに、その救いは麗奈にとって眩しく拒むことは出来ない程洗脳的な素晴らしさが溢れていた。

差し出される手は、まるで罪人に垂らされた蜘蛛の糸のように...

私のの視線を捉えて離さない...

身体がゆっくりと動き出し、彼女はその手にそっと自分の手を重ね...


「わ...私の、願いは...―」


震えながら彼女はその言葉を、願いを、罪を...口にした。


「承った」


死神はその一言だけを口にして...不気味にほほ笑んだ。

麗奈の周りを動き回る鳥かごのような何かは...薄気味悪い、鐘へと姿を変え、打ち震える。

響くその不快な音は、この町中に、世界に、まるで呪いのように響き渡った。


「依頼は完了した、では対価を頂こう」


それを聞いた安堵と緊張。

同時に押し寄せる感情の波を受け止める時間もなく...

無慈悲な死神の手が、へたり込む麗奈の体を、いともたやすく貫いた。


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