002 私が見た世界
世界は冷たく、誰も私を見ていない...
本当に周りがみているのは、みんなが求めているのは私じゃない...
皆にとって都合のいい私なんだと。
子供の私が追い求めて、求め続けて気づいた...一つの答えだった。
そっか、私がいなくなればいいんだ...
そう思ってしまったのは、もう何か月も前の雪の降る寒い日だった。
その日、家の中はいつも通り喧騒に包まれていて、そんな家中が嫌で嫌で私は家を飛び出した。
「...ッ!!」
...無我夢中で雪の降る街中を走り抜ける。
人込みの中、道行く誰もが私の事を見ていて、笑われているみたいでその視線から逃げるように人のいる場所から逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて...
気づけば、ドラマで使用される為に残されていた立ち入り禁止の廃ビル、その屋上にいた。
「...ここで...決めたんだよね」
20階を超えるビルの屋上から広がる景色は、町を一望出来その彩に、目に見えていた世界がいかにちっぽけなのか気づかされた...自分がどれほど小さい存在なのか理解するには十分な光景だった。
「あれから3年、か...高校生になってようやく私も...覚悟決めたから...」
3年たった今も、変わることのない思い。
朝の7時、風が吹き荒れるその廃ビルの屋上で、彼女は冷たい手すりにつかまりながら下を覗き見ていた。
「け、結構高い...」
下はコンクリで塗り固められた地面、あまりの高さに足が震え、目の焦点が合わなくなる。
「...こ、ここから落ちる..んだよね」
確認するように、自分に言い聞かせてみるが...
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ...死にたくない―
脳が悲鳴を上げ、必死に死ななくてもいい言い訳を考え始めてしまう。
(―それじゃだめッ)
私は、私は...
生きていちゃいけないんだから...
私一人が死ねば二人が幸せになれる。
一を切り捨てて多くを救う、誰もが思う正しい正義、正解のはずだ。
(私はッ!―)
歯を食いしばって意気込み、止まる身体を無理矢理動かす。
手すりをまたぎ、落ち着けるように深く息を吐いた...その時。
「....ッ!」
後ろから駆けてくる音に彼女は振り向いて...
「自殺するなぁぁぁぁぁあッ!!」
「え?」
白髪に黒いロングコート、フードをはためかせながら駆けてくる少年は、彼女の肩を掴み思いっきり手すりの前へと引きずり戻し...
「勢いつけ過ぎちゃったぁぁぁあッ!」
壊れかけの手すりに突っ込んで、そのまま落ちた。
「ちょ、え、うそ...落ちた、の」
私のせいで?人が一人死んだの?
(私なんかの為に?...)
「落ちてないッ!落ちてないからッ!助けてッ!」
「え、あ」
恐る恐るビルの下を覗いてみると、宙ぶらりんの状態でギリギリ出っ張りにつかまって事なきを得ていた。
「い、今助けるからッ!」
「お、落ちちゃう..速くぅ...」
近くの手すりを握り締めて、もう片方の手を必死に伸ばす。
けど、あと数センチ足りない。
「あと、もう少しッ...」
恐怖なんて感じる暇もなく、ただこんな無意味な自分の為に誰かが死んでしまう、それだけが許せない。
自分が死んでもいいから、せめてこの人を助けないと。
気持ちが理性を麻痺させて体を手をもっと、空へと伸ばして...あと少しで...
「「あっ...」」
だが、彼女の手が少年に届くよりも早く少年の力が尽きた。
「...わぁぁぁぁあッ!?」
「ッ!!~」
声をあげながら落ちていく少年に、彼女は咄嗟に目をつむり耳をふさぐ。
それは現実からの逃避だ。
少年がアスファルトでつぶれる肉塊の映像を、骨が内臓を突き破る生々しい音からの逃避。
見たくもない現実から目をそらし、聞きたくもない音から耳を閉ざす。
それは...これから私が『ナル』ものだから。
そんな恐怖に怯えながら、その場に丸く蹲る姿は子猫のようにも見える。
「嫌ぁ...私は、私はぁ...」
泣く様にかすれた声の子猫を嘲笑うような、確かな声が響いた。
「そんなに怖がるなら、自殺なんて考えないでほしんだけどなぁ」
「へ?...は?...」
確かに聞こえた声に、彼女は顔を上げる。
そこにいたのは...確かに、絶対に...
「僕、飛べるんだった、忘れてたよ」
死んでいたはずの少年で、ただあり得ない光景に彼女は目を疑った。
(立ってる...)
確かに、その少年は目の前に立っていた、見下ろすように...何もない空の上に...
「あ、貴方...ナニ?なんなの?」
「ナニって言われてもなぁ...そうだなぁ、うん」
少年が手を前に構えると、空間が歪みコーヒーカップのように周り...
いつの間にかその手には禍々しい鎌を手にしていた。
その鎌を肩に回して、目の前の少年はニコッと笑って口にする。
「迎えに来られたいランキングNO1ッ!どうも、死神だよ~ん」
私は...毎日、自殺を考えた日から何度も、何度も何度も何度も何度もッ!...
ずっと誰かが私を殺してくれないかなって、悪魔でも天使でも...誰でもいいからこんな世界に迎えに来てくれませんかなんて...ずっとお願いを心のどこかでしてきました...
けど神様...こんなふざけた奴なんてあんまりな仕打ちだと思います。
真面目に、真剣に悩み苦しんで、死のうとしていた私の前に、今実際に現れたのは...悪魔でも天使でも...ましてや神でもなく。
私を実際に迎えに来たのは...とてつもなくふざけ、今も絶賛ピースを浮かべているような...死神でした。