018 ハックバーガー
「要するにね、クッキーは京助君を虐めのストッパーにしようとしていたんだよ」
「ストッパーですか?」
子供の王国を出て、ウタさんとの着替え中。
結局何がしたかったのかよくわからなかったと、ウタさんに質問してみた。
すると、またよく分からない話をされた。
「本来は京助君にはやばい繋がりがある設定だったけど、それだけじゃ虐めはなくならない、だから京助君本人をやばい奴にしたんだよ」
「う、うーん?」
「京助君は虐めをほっとけない子だから、絶対に虐めっこに関わっていく、けど京助君がやばい奴なら虐められない...つまり誰も虐められない、って事」
「あー、なんとなくわかりました...確かにストッパーですね」
けどこの作戦には穴がある。
もし、万が一にでも向こう見ずな奴が京助君に喧嘩を売った場合、勝てないだろう。
瞬間、メッキがはがれてまた元通りだ。
「うん、レイレイが思ってる通りだよ。だからあの3馬鹿トリオが必要なの」
「.....そっか、あの3馬鹿を脅して京助君の舎弟にでもさせれば...」
「荒事は全部3人にやらせとけばいいからね、メッキもはがれない」
あの3人はこの辺では有名で、一番強いらしいし。
それの上に京助君を君臨させれば確かにストッパーとしては十分に効力を発揮できる。
確かにいい作戦だと思う、ただ凄いのはこの作戦というよりも...
「クッキーさん凄いですよね、結構えげつない作戦ですけどこんな事考えつくなんて...」
「そうだね、クッキーはこんな感じで色んな人を救ってるんだよ」
「でもこの作戦...完璧じゃないですよね」
「ん?どうしてそう思うの?...」
「確かに結果的にいじめはなくなるかもですけど、京助君が腫れもの扱いっていうか...誰も苦しくないけど誰も救われてはいないって言うか」
「それは...仕方ないよ」
元の服を着た彼女は、少し苦しそうにつぶやいた。
「私たちは神様じゃないんだから...全てに配慮して満遍なく救えるわけじゃないんだよ...」
それはまるで自重のようにも聞こえてくる。
ただ、なんていうのだろう...ウタさんの瞳は今回の件とは別の何かを見ているような気がする。
まるで何かを取りこぼしているような、箱に穴が開いているみたいな...
「そろそろみんな呼びに行こ?」
「そうですね、待たせるのも悪いですし...」
「それに!そろそろお腹もすいたでしょ?」
車の中で着替え終えた私は、外の路地裏で着替えていた死神達を呼び、車でお昼ご飯を食べに行くことになった。
何やら依頼が終わった後はこうやってご飯を食べに行くのが恒例らしい。
「初仕事祝いに不和の好きなとこにでも行くか?」
ふと思いついたようにクッキーさんがそんな提案をしてくれる。
「いいね、賛成~」
「そうですねそうしましょうか」
「クッキーのおごりだからどんな高級店でもOKだよ!」
「おい...まあ、俺の仕事に付き合てもらった訳だしな、好きなところでいいぞ」
クッキーさんは思ったよりも懐が広いというか。
ウタさんがそんなふざけたことを言っても突っ込みはしても承認する、なんていうか今の見た目も相まって兄貴って感じがすごい。
「え、良いんですか?」
「いいよいいよ、好きなの言ってごらん?」
自分の体に戻った死神がそんなことを言って...
真っ先に思いついたのは、高い物じゃなくて、ありふれたもの。
高校に通っていた時よく帰りに寄っていた。
今時の人間なら一度は食べたことがあるジャンクフード。
「ハックのハンバーガー食べたい」
というわけで、若干驚かれながらも道の途中にあったお店に入ることになった。
そこでハンバーガーの一覧表から選んだのは代表的なハックバーガ―とポテト、それと季節のシェイクを一つずつ。
カウンターで受け取ると、適当に窓際の席に着くと、ふぅーと疲れたようにため息を一つ。
(...まだ、たった1日...)
今日ほど濃密な1日は無かった。
色んな人と出会って、褒められて、人を助けて...生きてるって、私が存在してるって感じた。
あの学校生活のような、虚ろな感覚じゃない...確かな手ごたえのようなものを感じた。
こんな日々がこれからも続いていくんだ。
(...そういえば、よく来たっけ...)
ふと、思い出すのは懐かしい日々。
隣で笑っていたツナ、ちょっと口が悪いけど優しかったみおちゃん、他にも多種多様な人とここに来ては笑っていた。
もう絶対に戻ってこない日常。
「にしてもハックなんて久しぶりだなぁ」
学生時代を思い出すよ~、なんて言って隣に座ったウタさんが楽しそうに笑っている。
ウタさんって何歳なんだろう?...
「なんか婆みたいだな」
「余計なこと言ってると張り倒すよ」
「すいませんでした」
ウタさんの隣にクッキーが腰をおろして、余計な事を口にしたばっかりに今にも土下座させられそうな、というよりしそうな勢いだ。
「相変わらず仲いいね~」
「そうですね~、はいどうぞ」
「うむ、くるしゅうない!」
普通の人には見えない死神は、真司が二セットぶん買って人目に付かないところでこっそり渡している。
レナの瞳に映る友達の幻影が座る席に、今は違う人たちが座っている。
私は...恵まれている、あんなことを願ってもそれでも人がいる環境に、それも優しい人たちばかりに囲まれて、自分は幸運だと心底思う。
これも死神がくれたもの、大事にしていこう。
「あの、ウタさんクッキーさん、これからもよろしくお願いします」
「いきなりどしたの?」
「お世話になるならこういうのって、やっぱちゃんとしないとな、と思って」
「そんな気にしなくていいのに、仲良くいこ?」
「...でも、その...やっぱり、役に立てないような気がして...」
結局、今日の事も、確かに京助君を説得は出来たかもしれない。
けど、実際のところクッキーさんなら説得位できたような気がする。
本当に私は...ここに居る意味があるのだろうか、こんなにいい場所に居させてもらう代償を払えるだろうか。
悲観的な私に、ハンバーガーをほおばっていたクッキーがおもむろに言葉を零した。
「...高校の校歌」
「...え?」
「校歌を不和は歌ってたか?」
「え、ええ...一応、高校のクラス委員長でしたから...私を筆頭にみんなで歌ってましたけど..」
「俺は歌ってなかった、ずっと...」
「えっと...?」
「体育館の中、校歌の音楽だけ流れて誰一人として空気なんてくだらないモノをよんで歌わない俺もそうだ。けどな、教師だけの歌声だけが響いてていつも思うんだ...こんな歌程度まともに歌う事もできない俺達は、きっとくだらなくてつまらない人生歩んでいくんだろうなって...」
なんだろう、とても暗い学生時代を語り始めた。
「けど、お前はそんな空気を壊して、自分の意見を言える...京助の時だってそうだったはずだ」
「ですけど...あれだって」
「確かに俺も、方法がなかったわけじゃない...ただもし了承を得られなければ、ちょっとした脅しをしてた」
その言葉、とても説得力があった。
なにせあの3馬鹿に対して見せたウタさんとの完璧なコンビネーション、とてもやりなれていた。
確かにしていたのかもしれない。
「俺にはできない事をした、それは事実なんだ。だからもっと自分に自信を持ってもいいと、俺は思うぞ...多分」
煮え切らない答えを言って、なんていうか少し歯がゆそうにごまかすようにハンバーガーにぱくつきながら窓の外を眺め始める。
そんな意外なクッキーさんの一面に多少驚いてウタさんを見ると、にやにやと笑っていた。
「ふふふっ...」
それにつられるように私も笑ってしまう。
「慣れないことはするもんじゃないよ、ねクッキー」
「うっせ...」
恥ずかしそうにそっぽ向いたクッキーは...
突如立ち上がった。
「ッ...ウタ」
「うん、分かってる」
ウタさんも少し険しい顔をして立ち上がり、入り口の外を見ていた。
「え?なに?...」
困惑する私を置いてウタさんがささっと紙袋を広げて買ったばかりのハンバーガーとポテトを閉まっていく。
後ろを振り返ってみると死神達はすでに外に出ていっていた。
「ごめんレイレイ、最優先事項みたい」
そう言って私の手を掴んでそのままハックの外に出ると、紙袋を車の中に放り込んで車に乗り込むと、何処へ行くのかすぐに車が発進した。
―この時の私は、コカトリスの本当の役割を理解していなかったんだ。




