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死にたい私たちの救済  作者: ゆづにゃん
親愛なる家族達【コカトリス】
17/18

017 子供の王国

そこは、別名子供の王国。

一般的に信頼のおける大人達である家族と隔離された同年代の人間と一日の大半を過ごす場。

子供だけの上下関係が全ての、世界に比べれば実にちっぽけなくだらない王国。

世間という荒波に飲まれる前に、唯一上に立てる場所。

それゆえに抑制が効かない。

何か悪事を働いたとしても、子供のする事、と問題が大ごとになることを避け教師は口を閉じ、子供も子供で、悪事を吐露すれば勝手に作り上げた、卑怯者のレッテルを張りつけられる。

それ故に、最悪の事態になりかねない...理解があるモノ程嫌悪する隔離された世界。


(―けど...私は...)


目の前の一般的な高校の校門の前に立ち尽くしながら思う。


(そんな学校が...救いだった)


私にとっては、家にいない時間が少なくなることはむしろ望んでいる事だから。

ずっとその子供の王国に救われていたんだ。


「何してるのレナ?」


肩に乗っている人魂が少し不安そうに言葉を吐く。


「大丈夫?」


「...ううん、なんでもない」


けど、京助君にとってここは地獄にも変わらない場所なんだろう。

結局人それぞれ価値観も感じ方も違うのだ。


「いこっか、京助君を助けに」


ただ、せめてこの場所だろうと、どんな場所だろうと...良い人が苦しむのは見ていられない。

今、私を動かしているのはそれだけだった。




校門を入って、保護者等の専用の入り口から校舎の中に入ると、クッキーが前に出た。


「今日、来ることになっていたこういうモノですが...入れていただけますか」


「お名前を拝見させて...テンシンッ!?」


とても不審なモノでも見るような目で見てきた事務室のお姉さん。

いやまあそうだよね、どう見ても不良にヤクザ、もう明らかにヤバい奴ら臭がぷんぷんだもんね。

けれど、お姉さんはすぐに渡された名刺を見て目を見張る。

お姉さんの口から漏れた『テンシン』という言葉...あれ?どこかで聞いたことがあるような気がする。

うーんと頭をひねってみるものの思いだせない。


「しょ、少々、お、お待ちくださいッ!?」


明らかに態度と声音が激変する事務員の人。

慌てながら奥の方へと姿を消す。


(何が書いてあるんだろ...)


やっぱりコカトリスは闇が深い、何かしらの強いコネを持っているのか...


「いやはや、お出迎え出来ず申し訳ない」


しばらく待っていると、慌てて出てきたのか髭を携えたとても柔和な笑みを浮かべるおじさんが、階段から降りてきた。


「いえ、こちらが何の連絡をしなかったのがいけないのです。押しかけるような形になり申し訳ありません」


「いえいえ、...すいません申し遅れました、私この高校の理事長をさせていただいている者で、海老野卓三と申します」


「こちらは...そうですね、名前がありませんので裴瀬(はいせ)さんの使いと思っておいてください」


裴瀬さん?

知らない名前だ。


「そうですか...では、一度移動いたしましょうか、そこにて本日の用件を聞かせていただきます」


「いえ、結構です...時間がありませんので、今この場にて簡単に説明させていただきます」


「ほう...急ぎの様ですか?...なにやら皆さま奇抜な格好をなさっておりますが...」


クッキーが取り出したのは、死神が盗撮していた写真で、クッキーが理事長に頭を下げさせ教室まで案内させるのに10分もかからなかった。

...本当に、この人たちの裏側には誰が潜んでいるのだろう。




1-A、確かにそう書かれている教室、その中からは声が聞こえてくる。

それは教師のモノと、生徒たちの笑い声。

ありふれた一般的な授業風景だ。


「ここか...そのクソどものクラスってのは...」


死神を乗っ取ったカゲは不敵に笑うと、確認するようにクッキーに視線を向けた。

クッキーは何も言わずただ、無言でうなずいて...


「ッ!」


にぃッと、飛び切りの笑顔を浮かべて、その目の前の扉を蹴り飛ばした。


「ッ!?」


蹴り飛ばされた扉は、まるで重さがないみたいに跳ね飛んで、教室の奥の窓ガラスに突き刺さっていた。

いきなりの行動に私は驚いて固まるが、ウタさんも真司さんも真顔で、悠然と構えている。


(...弁償だよね...これ...)


まあ、お金はあるみたいだしいっか...

少しづつレナも、この集団に染まりつつあった。


「邪魔するぜぇ~?」


堂々とスーツ姿でずけずけと入っていく死神に続いて、和服のクッキー、その後に真司さん。

その更に後ろから不良みたいな恰好をしている私とウタさんが続く。

教室に一歩入ると、無数の視線に突き刺され体が硬直してしまう。


「大丈夫だよ、力を抜いて」


そんな私の手を握ったウタさんは耳元で小さく呟いてくれて、どうにか歩きだせた。


「な、なんですかッ!?貴方達はッ!?...け、警察を呼びますよッ!」


テンパって吠えるのは、髪が少し薄い男性教師で、黒板に描いていた数式を書き途中、チョークを呆然と落とした。

そんな教師の首に死神は腕を回して、教室の隅に引き寄せると...


「ばらされたくないのであれば、今すぐここから黙って出ていけ」


「こ、これはッ!?...」


近くで渡した写真は、生徒に何かしら売りつける様子と、女子生徒の盗撮をしている様子の写真で...


「ま、まてッ!私は...こ、こんな事ッ!?」


「真実か虚かなんてどうでもいいんだよ、どちらにせよこれが広まれば疑われ信頼が消えるのは明白、さっさと失せな」


「...ふ、ふざけ...」


「人生とたった一時の正義感、果たしてどちらが重いんだろうなぁ?」


うすら笑いを浮かべながら教師の肩を掴み、命まで握っているような感覚はまさに死神といった感じだ。

その様子を見て怯えるでもなく嘲るでもなく麗奈は思う、あれ?こっちが本物じゃないだろうか、と。

よくよく考えたら昔から人類に恐れられる死の代行者があんな頭のねじまで緩そうなやつだったのがおかしいのだ、うんうん。

なんて状況に似つかわしくない事を、緊張感のかけらもなくそんなことを考えていた。


「なーに悪い様にはしねぇよ、生徒に少し教育するだけだ...あんたは少し席を外してた...それでいいだろ?なぁ?」


「.....」


気圧された教師は、教科書を手にしたまま廊下側の扉を開けて出て行った。


「利口な判断だな」


教師の鑑だねぇ、なんて皮肉気味に呟いたカゲは不敵に笑いながら生徒に視線を向ける。


「やあ勉学に励む生徒諸君、自己紹介をしよう。私は蒼樹組の鉄砲玉をやっている」


グラサンをくいっと持ち上げる仕草が板についている。

ちょっと、背がい低いから子供っぽく見えるけども...凶悪そうな表情と言葉がそれを補っている。


「蒼樹組って...あのやばいって噂の?」


「警察とドンパチやってる」


「この前銃声聞いたぞ」


「やっば、なんでそんな奴らがこの学校に...」


騒がしくうるさい、それを黙らせるよ耳をつんざくような音が生徒をすべて黙らせた。

それは、銃声。

グラサンオールバックのクッキーがおもむろにクラスの窓ガラスに向けて銃を発砲したのだ。

正直、びっくりした。

ただ、冗談じゃないガチでやばい人たちだというのは伝わったらしく、誰もが絶句している。


「黙れクソガキども。生徒諸君質問だ俺達はブチギレてる、何故だと思う?」


クッキーはその銃口を生徒に向けて声を上げる。

撃たないよね?と少しだけ心配だ。


「京助ちょっと前出てこい」


その声に後ろの席の京助君は黙って立って前に歩いてくると、その首に腕を回す、まるで旧知の間柄のように。

そう、これがクッキが―考えていた作戦、京助の後ろにはやばい繋がりがあって手が出せないという事にしてしまう。

けど、やっぱりこれじゃあターゲットが変わるだけな気がする。

ウタさんは考えがあるって言ってたけど...

本当にあるのだろうか、と心配そうに見守ることしか私には出来ない。


「こいつはうちのもんだ、なんか可愛がってくれたらしいじゃねえか?なぁおい?」


拳銃を向けながら生徒を威嚇して...

教室の隅、一層顔を青くする一団の前で銃を止め、おもむろに発砲した。


「ひッ!...」


「クソガキども、今ここで一人犠牲者を決めろ、そいつ以外は全員助けてやる...まあそいつがどうなるか...数日後に写真でも送ってやるよ」


それはとてつもなく怖い一言だ。

レナもあまりに酷なやり方に...可哀そう一割、ざまぁ九割の感慨に浸っている。

なにせクッキーさんの言葉に従うのなら、いじめをしていた連中は確実に仲間割れが怒る。


「え、やだ...ど、どうすんのよ...犠牲者を決めろって...」


「お前...このまえ机にゴミ仕込んだりしてなかった?」


「いや、だってあれは!...ただのノリじゃねえか!お前らだってやれやれ!言ってたろ!」


「てかさ、うちら女子は関係なくね?だってあんたらじゃん、暴力振るってたの」


「はぁ!?もとはと言えばお前らがやれって言ったんじゃねえか!逃げてんじゃねえよ!?」


「明らかに手を下した奴が悪いでしょ!うちらは関係ありません~!犠牲者は男子内で勝手に決めてね!うちら巻き込まないでくれない?」


「てめぇら!...そろいもそろって!...」


女子たちはそれで助かるならと視線を背け、男子陣を罵倒し始める。

もう明らかなほど、関係が崩れた...もうこれ以上...そこで一発の銃声が鳴り響く。

そこには鬼がいた、悪魔と言い換えてもいい。

この場を更なる混沌に変える一言をクッキーは放った。


「何か勘違いしてるが、犠牲者は男女一人ずつだぞ?」


「はぁ!?なにいきなり意味わかんない事...」


つい食いついてきた女の髪を弾丸が霞めて、後ろの窓ガラスを破壊する。


「キャァッ!!」


「もういやぁぁぁあッ!」


悲鳴を上げ、蹲る女子たちにクッキーはただ悪魔のように言葉という武器を持って追い詰めていく。


「何口答えしてんだ、殺すぞ。てかお前ら、卑怯にも程があるだろう?今まで散々、自分らの好き放題しておいてまだ自分の罪から逃げんのか?...まあ別にいいさ、自分達には関係がないというんなら...女子は全員皆殺しで決定!」


「待ってください!決めますから!...だから、どうか...」


「ああ、いいよ?決めなよ一人だけ、誰が最も最低な行為をしていたのかあぶりだせよ」


そこからは...酷いモノだった。

男も女も、お互いに口汚くののしりあって暴力にまで発展する。


「あんた前から気に入らなかったのよッ!」


「あんたこそッ!ちょうどいい機会だから死になさいよッ!」


気の弱い子たちは泣いていたり、蹲って現実逃避をしていたりと...これはまたなかなかにカオスで...


「どうして私たちがこんな...」


「嫌だ...しにたくねぇ...」


正直胸の内がスカッとしていた。

ただ、クラスの中にも多少は達観した者、自分勝手な奴もいて。


「今ままでお前らがしてきたことのつけだろ、大人しく受け入れろよ...まあ俺も見て見ぬふりをしたから言い逃れは出来ねえけどさ」


「ふざけんじゃねえッ!ただクラスのゴミをサンドバックにしてただけだぞ!納得できるかッ!?」


数人、もともとこの京助君が酷い目に会っている現状を納得していなかった子達も少なからずいたようで少しだけ嬉しくなる。

にしても...さっきまで笑いあってた人間達が、これだけ醜く争っていると...もう、二度と元の関係には戻れないだろう。

多分それがクッキーさんの狙い何だと思うけれど。


(さて、と...これくらい壊れればいいだろ...あとは)


「ッ!」


あと少しで犠牲者が決まる...という所で、クッキーは弾丸を放った。

当然当たることなく、窓ガラスに当たるが...生徒たちは掠れた悲鳴だけ上げて震えていた。

もう、恐怖でしかないのだろう、あれだけの事をしたのだから、犠牲者に選ばれればどれだけの事をされてしまうのだろうかと。

だが、そんな生徒たちの心配も一蹴してクッキーは私を、というか私の肩に乗っている人魂を一目見てから、予想外の動きをした。


「さて、犠牲者の前に...一つ聞かなきゃいけねえことがある...おい、どういうつもりだ?京助」


拳銃を京助君の額に突きつけたのだ。


「なッ...」


咄嗟に京助君を庇おうとするけど、ウタさんが私の手をガッチリとつかんで目で訴えかけてくる。

私たちを信じて、と。

信じたい...信じたいけど、京助君顔が青ざめて足震えてるよ?


「お前、何故虐めなんざガキの抗争に手を抜いてやがる、てめえは親父が認めた奴だろうが...ドス一本チャカ一丁持って返り血まみれで笑って帰ってくる、あの狂介は何処に行った?」


「え...あ、は?...」


京助君は全く何のことか理解していない、それはまあ作戦でわざと伝えてない事だからね、そうなるよね。


「とぼけても無駄だ、もし腑抜けたってんなら恥さらす前にここで消えろぉ」


一触即発、虐めていた奴らも京助をみて青ざめた目で見つめている。

そんな超絶やばい状況に...肩の人魂が動き出した。

その甘ちゃんな人魂は、肩から降りると京助の体に体当たりをかました。


「ッ!...」


人魂は京助の体の中に透けるように入り込むと、京助君の体がびくっと少しだけ痙攣する。

瞬間、瞳の色がルークの物に変わった京助君が不敵に笑っていた。


(あの死神...京助君の体乗っ取ったッ!?)


何する気だろ?と、おもったら。


「馬鹿が」


一言呟いた直後ものすごい早業で、それも格好よくクッキーの体勢を崩して、拳銃を取り上げて組み伏せてしまった。

あまりに凄い早業に見えるけど...たぶクッキーさん自分から転んでるよね。

てか死神って一応戦闘経験あるのかな、いくら安全とは言え一般的な人が、というか死神があんなに奇麗に人を組み伏せられないと思うんだけど。


「俺に勝てるわけないだろ」


「京助てめぇ、若によくもッ!」


若干笑いをこらえているカゲが怒っている風に、拳銃を取り出すが...


「やめろ」


クッキーが静止を促す。

そこで組み伏せられた体制から起き上がったクッキーは溜息交じりに踵を返した。


「お前がどういうつもり弱者のふりしてるか知らねえが、腑抜けてねえならいい...犠牲者を出すのも辞めだ。こいつを敵に回してまでやる価値はねぇ。邪魔したなクソガキども、行くぞてめぇら」


そこで死神は京助君の体から飛び出して、私の肩に戻ってくる。

そのまま私たちは親分、クッキーに引き連れられながら教室を後にした。

結局私には、クッキーさんの最後の狙いがよく分からなかった。


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