016 不良はいや
―というのが私が不良に着替えるまでの約30分前の出来事で...
一つだけ、どうしても一つだけ言っておきたい、というか聞いておきたい。
...結局私は何をすればいいのだろうか?
ここの人たちは話を事前にしておく気がない人たちばかりなのだろうか?それとも肌で感じとれとでもいう気?
...入ったばかりの新人にそりゃないでしょうよ先輩方。
と、完璧に不満そうに文句をウタさんに垂れ流してしまう。
といってもこれは私が不良の格好をしたことに対する不満を晴らすための攻撃を探していたに過ぎない。
「ご、ごめんねレイレイ」
「...別に、ウタさんが悪いわけじゃないですよ...」
「その、普段はしっかりと事前に伝えあうんだけど...レイレイがついてくることになったのも急だったし、それに...」
「それに?」
「る、ルーちゃんが伝えとくよって、私たちに言ったから...」
凄い言いづらそうにウタさんが口に出すと、ぶちっとレナの中の何かが音を立てた。
「あんにゃろう...」
いままで誰も説明してくれなかったのは、もう既に私が知ってるんだと思い込んでいたわけか...
(全部あの卍解もできないパチモン死神が悪いんじゃないッ!!)
ずっと、私だけ会話の外だったこの疎外感よくも味合わせてくれたな...
私は、おもむろに不良なりきりセットに入っていたリアル金属バッドを手にすると、その光を反射する見事な光沢に向けて不敵に笑った。
「ま、待ってレイレイッ!ルーちゃんも悪気があるわけじゃないのッ!少しおっちょこちょいなだけなのッ!」
「大丈夫ですよええ!ただ話を聞きに行くだけですしッ!」
「説明なら私がするからッ!流石にそんなのでいきなり殴られたらルーちゃんでも死んじゃうかもだよッ!」
とまあ一波乱。
必死に車のなかで、まだ着替え途中のほぼ下着姿のウタさんに抱き着かれ車から出るのを阻止されてしまう。
流石に、下着姿のこの人を引っ張て行くわけにもいかないし...もし、服を着てたら今頃この不良セットがもっと完璧に真っ赤に彩られていただろうに...ウタさんに救われたね、パチモンめがッ!
というわけで、ウタさんの着替えを手伝いつつ、なんとなく話を聞いて作戦の全貌が見えてきた。
「―そういう事ですか、だから不良の服...」
この作戦は、聞いてみた感じ確かにとても威力がある。
考えたクッキーさんの性格の悪すぎない?と思う程度には...ただ。
「これじゃあ、虐めはなくせないんじゃ...」
確かに上手くいけば京助君はこれ以上何もされなくなるかもしれない。
だが結局、虐めの標的が変わるだけなんじゃないのか、それが唯一の杞憂。
...だったけど。
「大丈夫、クッキーならそこも考えてあると思うよ」
大丈夫、そう語るウタさんの瞳に一切の淀みも一切の不安すら無く。
確実にそうだという、確信をもっての言葉だった。
なら、新米であるレナに言葉を挿む余地はなく、ただ頷くことにした。
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「お、おらぁっ!?が、ガキどもがっ!」
「違う、もっと威圧的に、声も低めにして」
「おらぁっ!?ガキどもぉっ!!」
「もっと怒りをあらわにするみたいに」
「うおらぁぁぁぁあッ!!」
車から降りて路地裏に入ると、なにやらスーツ姿の死神が和装に身を包んでいるクッキーと同じくスーツ姿の真司さんに何かやらされていた。
「何してるんですか?」
「脅す言葉の練習をさせてるんだが...」
苦笑い気味に、残念な死神を見るクッキーさん。
「うがぁッ!!ガキどもぉッ!」
なんて、叫び散らしているものの声から優しさというか、緩さが抜けていない。
どう考えても作戦に向いていない、人選ミス...死神ミスもいい所だ。
「仕方ないな、ルーク」
「え..と、なに?」
少し息をきらしながら、クッキーの言葉に答える。
「カゲを呼んでくれ」
「えー...せっかく人間のなった|のにぃ...」
不満そうに頬を膨らませると、抗議するようなじとーとした目でクッキーを見る。
けど、駄目だ、とでもいうようにクッキーは顔を横に振る。
すると、ぽんっと、まるで水が弾けたような音を響かせて死神の体から何かが飛び出した。
「話は聞いてたぞ、クッキー」
出てきたのは、人魂だった。
そう、あの昔話とかのまんま人魂、よく昔話とかお化け屋敷とか、人が死ぬと体から飛びだすとされている、怪談のオーソドックスな恐怖の対象だ。
(う、うそ...あり得な...くもないのかな?...)
既に死神を見た後なのだ、人魂位いたっておかしくない。
「勝手に出てこないでよ...」
「お前が甘すぎるのがいけないんだ」
「えー、だって...」
「いいから体貸せっ!」
人魂がそう叫び、思いっきり死神の頭に向かって体当たりをかますと、人魂が弾けとんだ。
「うわっ!?...」
「おっと...わあ」
弾け飛んできた人魂はレナの近くにふらふらと落ちてきて、手のひらで救いあげるとほんのり冷たかった。
まるで、ドライアイスの水蒸気を触れているみたいな感覚に近い。
「ひ、酷いよカゲっ!?」
「え、死神?...」
手の上の人魂の声は、明らかに死神の声。
じゃあ、今あの死神の中にいるのは...
視線を向けると、だらんと垂れ下がった手がぴくッと確かに動き出した。
「仕方ないだろ、ルーク?」
「なんで、僕だって頑張ってたのに...」
「前から言ってるじゃねえか、お前がやりたくないことは俺がやるって」
「むー...」
「にしても...久々の体ってのは重いなぁ」
不満気な死神を差し置いて、死神の中に入った影は腕を伸ばしながらクッキーに視線を向ける。
「じゃあ、行くか?」
「ええ、話はもう聞いてますよね?」
「ああ、俺はおあいにく様ルークみたいな甘さは持ち合わせちゃいねぇ」
両手で髪をかきあげる、明らかに死神にはなかった凶暴な瞳が爛々と輝いている。
てか、オールバックが黒スーツに結構似合っている。
「じゃあ、行くか...京助もあの馬鹿三人組も学校についてる頃合いだろうしな」
ギラギラとした瞳を浮かべながら、私はまた話に置いていかれながら質問をする暇もなく路地裏を後にした。




