014 不良とは?
私は、生まれてから今まで絶対にならない、というかどうやったらそうなるのだろう?と思っている物が一つだけある。
それは、バリバリの不良、だ。
子供のころはずっとテレビだけが友達だった私にとって不良について知ったのは年端もないころだった。
たしかドラマなどで見たのが最初だっただろうか、小学校の時はまずそんな子はいなかったが、中学高学年や高校になるといるところにはいるらしく、私は出来るだけ関わらないように生きてきた。
誰とでも仲良くなれるレナさんが?と問われると恥ずかしながら肯定しざる負えない。
というよりも、私には彼らの思考パターンが全くよくわからなかったのだ。
未成年で煙草を吸ったり、他人に怯えられて距離を置かれて自慢になり、人を寄せ付けぬ奇抜なファッション。
私は距離を置かれるのが嫌で、人に好かれようと努力する私とはまさに真逆で...
はっきり言って怖かった。
人間は理解が及ばない物、出来ないものは、恐怖の対象に置き換わる。
その通り私にはどうにも理解が出来ない価値観で、恐怖の対象でしかなかった。
まだ、虫の気持ちの方が理解できるんじゃないかという程に...虫嫌いだけど。
そんな、不良恐怖症といっても過言ではない私が...
「どうして...こんな格好を...」
目の前の全身を映す巨大な鏡に映るのは、腰のあたりまで伸びる長い金髪に、首にぶら下げる銀のチェーン。
後は少し目をきつく怖い感じにすれば、それは、どこの誰が見てもわかるような...不良がそこにいた。
...どうして、こんな格好をしているのか、それは今から約30分前の事だった。
車から降りた私は、路地裏へと入っていった。
そこは、入ったときは少し狭い場所だったが奥に進むにつれて広くなっていて、ちょっとした広場のようになっていた。
そこには見るからに不良な三人組と一般的な学生服を着ている少年が正座させられていた。
「えーっと、これは一体?」
その人たち全員の顔は殴られた跡のようなものがついていて、これが仕事なのか?という意味で聞いてみる。
「やったのはウタだぞ」
「う、ウタさん?...」
「えっとね、違うの、確かに私がやったんだけどね、そのあの!...悪気があったわけじゃなくて...不可抗力なのッ!」
慌てたように両手をぶんぶんと振るウタさんは、若干涙目だった。
慌てすぎて全然会話が成り立たないウタさんに変わり、クッキーが口を開く。
「まあ簡潔に言うと、そこに座ってる一般人っぽい奴が今回の依頼人、何やら不良に絡まれていた所を車の中から偶然発見してな。追いかけて路地裏に入ってみれば暴力受けていたから、声をかけたウタがそこの三馬鹿をぼこぼこにした、という所だ」
長々とした説明をまとめると。
車で目的地に行く途中で、偶然窓の外を歩く依頼人が目に入った。
それも不良に絡まれていたらしく、路地裏へと連れていかれたのでわざわざ車を止めて追いかけたらしい。
暴力沙汰になるかも、と思ったらしく念のため私を真司さん付きで置いていったらしい。
聞いた限り私よりも危険そうなウタさんを連れていくっていうのが納得いかなかったが...
「.....」
「ち、違うのッ!だって、クッキーが何もしないんだもんッ!代わりに私がやるしかないじゃんッ」
じとーと、見つめているとぶんぶんと首を横に手を上下に振っている。
必死だ...けど、その様子がなんか可愛い、もっといじめて見たくなる。
...にしても、この小柄な少女が一体どんな風にこの不良三人をぼこぼこにしたのか...人体の不思議だ。
「で、今から何をするんですか?...まさか、この人達消すんですか?」
「え、そ、それだけは勘弁して下せぇ姉御ッ!!」
「誰が姉御だッ!」
冗談めかして言った言葉に過剰に汗を垂らしながら反応する不良三人組に、つい突っ込んでしまった。
てか、冗談にこの焦りようって...本当に、一体どんなことをされたのだろう。
...私、ウタさんに逆らわない、ここに誓う。
「お、俺達別に...本気でやろうとしてたわけじゃなくて...」
「そう、なんていうか...その、依頼だったんだよッ!」
その言葉に反応したのは、クッキーさんだった。
その、死んだ瞳で睨みながら不良たちの問う。
「その依頼ってのはなんだ」
「...腕か足、一本で1000円」
バツが悪そうに口にしたのは、最悪最低な言葉。
死神でさえ少し嫌悪のような表情を薄っすらと浮かべていたが、クッキーは淡々と胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
それは、誰かの写真、それを見るなり不良共は顔を見合わせる。
「依頼してきたのはこいつか?」
「.....言えない、信用にかかわる」
「は?不良がいっちょ前に堅気気取りか?...ウタ」
「なーに?」
不穏な瞳を揺らしながらクッキーは、にやにやと...こういっちゃなんだけど少し気味の悪い凶悪な笑顔でウタさんに告げる。
「こいつらの骨一本につき、一万だ」
引きつる不良たちの顔、そして目を輝かせるウタちゃん。
凄い、めちゃくちゃ怖い。
死神も、真司さんもみんな笑ってる...ちなみに私は顔が引きつってる。
「やったぁっ!買いたいものあったんだよねぇ~...え、クッキー?あばらとかも一本に入るの?」
「おう、折れた数だけ金は出すぞ」
「うふふふふっ♪一人につき50万は固いなぁ...」
「ひぃッ!!」
「ま、待って...!」
物騒な事を言いながら、不良たちの言葉も虚しく無邪気な笑みでゆらりと近づいていくウタさん。
というか一人につき50万て...50本も骨折る気?その前に死んじゃうでしょ...てかこれって...
(脅しだよね...)
そこでやっと気づいた、みんな合わせてやってるんだ。
べ、別に気づいてたけどねッ!まさか本気でやるんじゃないかとか...お、思ってないしッ!
自分自身に言い訳をしつつ、自分も合わせるように何かしらの脅しを言おうとして...
「や、辞めてくださいッ!」
怯えて言葉が出ない不良たちの前に立ちはだかったのは、ずっと黙っていた虐められていた少年だった。
「ぼ、僕は大丈夫ですから、彼らをこれ以上傷つけるのは...」
その勇敢な少年は少しだけ足を震わせながらもウタさんに立ち向かう、脅しをかけていた当の本人は動きを止めてそっと視線でクッキーと会話をする。
『どうする?』
そういった意味を込めた視線に、クッキーは首を小さく横に振った。
終わりの合図らしい。
「分かったよ~、150万円残念だなぁ」
なんて軽い足取りで不良たちの肩をポンと叩くと「良かったね」ととほほ笑んで、耳元で小さくつぶやいた。
「あの子がいなくなったら覚えておきなよ」
近くにいた私は偶然聞こえて背筋がぞわっと、寒気のようなものが走った。
不良たち本人の恐怖はこんなものじゃないだろう。
(ウタちゃん...いやウタさん、本気で怖い...)
あくまで少年の気持ちを大切にしつつも自分達の目的は達成するしたたかさ。
この人達は本当に優秀というか...手腕が凄いというか...
「す、すいません...正直に答えるんで...その」
おずおずと不良たちは自分が口にした言葉を撤回する。
どうやら理解したらしい、自分のちっぽけなプライドよりも命の方が大事だと。
その不良たちの掌返しに、ウタさんはにぱーっと無邪気な笑顔を浮かべて肩をポンポンと叩く。
「そっかぁ、自ら言う気になってくれるなんてお姉さん嬉しいよ!」
ちらりとクッキーとアイコンタクトを交わし、OKが出る
てか、ウタさんを操ってるのクッキーだから、本当のボスはクッキーかもしれない。
「じゃあ、もう一度聞くぞ、依頼してきたのはこいつか?」
写真に映っているのは女の子。
茶髪にピアス、目が鋭い特徴的な子だ。
顔は可もなく不可もなくといったところだろうか。
「はい、こいつを筆頭に同じクラスの奴等か知らないっすけど男を数人連れて...俺のところにわざわざ依頼をしてきました」
「何か言ってたか?」
「...ゲームだとか...だれが一番、そいつを苦しめられるか勝負らしい、です」
「クズだね」
「クズだな」
つい言葉を漏らしてしまう程に、呆れるほどに腐りきっている。
「お前らも同じ学校なのか?」
「ええ、まあ...クラスは違いますし、学校にもほとんど行ってません」
「...お前らって依頼されるくらいには有名なのか?」
「姉さんたちほどじゃありませんが...これでもここら辺では強いと有名です」
喧嘩自慢でここらへんじゃ一番強かったけど、ウタちゃんに占められて弱さを知ったらしい。
井の中の蛙大海を知らず...なんてことわざをかっこよく口にしてみたい。
...言ってみてもいいかな。
「じゃあ、お前らに俺も依頼してもいいか」
「依頼、ですか...」
「とりあえずお前ら家に帰って高校の制服着てこい、ダッシュな」
「ほらほらいけぇッ!クッキー様のいう事は絶対厳守だよッ!」
「「「わ、分かりましたッ!」」」
ウタさんがそういうと顔を引きつらせ、転びそうになりながら駆け出して行った。




