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死にたい私たちの救済  作者: ゆづにゃん
親愛なる家族達【コカトリス】
13/18

013 名前の意味

あの家、コカトリスを出たその先には、まずド●キとごった返す人が目に入った。

その近くにはショッピングセンターがずらりと並ぶ...私の経験上、どうみても東京だった。

あれ?おかしいぞ...私の慣れ親しんだ千葉はいずこへ?...

ふと、自分達の出た玄関の隣のドアの上には【Cockatrice】という英語表記の看板。

ガラス窓から店内を覗けばさっきまでいたカフェの内装とマスタ―の姿が目に入った。

カフェとは聞いてたけど...まさか東京の...それもこのショッピング街の中。

あまりの人の多さに既に酔ってしまいそうだ。


(...まさか東京に拉致られてるとは...)


友達と仲良く笑いあっていた懐かしきあの町はいずこへ?

ホームシックというか、ホーム消失というか、友情も記憶と共に彼方へと消えてるからもともと帰る場所なんてないのだけれど。

一度、帰りたいと思ってしまうのは、まだこの環境になれていないからなんだろう。

人間慣れれば船の上だろうが山の上だろうが北極だろうが生きていける、例え死を体現した死の神が一緒に暮らしていようとも、慣れれば天国、のはず...だから頑張ろう、頑張って生きていこう。

なんて意気込みながら、都会を見ていると、いつの間にか車に乗せられていた。

車は車でも、黒塗りの車、中が無駄にデカい高級車だ。


(テレビとかで憧れて、人生で一度は乗ってみたいと思ってたけど...)


こんな状況で乗っても楽しめない、むしろ緊張で体が強張ってしまう。


(てかどうして、こんな高級車買えるだけのお金あるのよ...)


まさか、死神って金持ち?

いやいや、普通の人には見えない死神がお金なんて持ってたって使い道あるのだろうか...

というかそもそもそんな手腕があるのか、失礼だがあまり出来るタイプの死神には見えない...

何か裏があるなぁ~?なんて疑いの眼差しで見つめていると...ふと、気になった。


「そういえば...どうして私見えるんだろ」


死神は確か、自殺する気のある人にしか姿が見えないって言っていた。

じゃあ、どうして私は今だに死神を見ることが出来ているのだろう?


「どうかしましたか?」


「いえ...何でもないです、それよりこの車は何処に向かってるんでしょうか」


声をかけてくれたのは、今朝死神がぼこぼこのぐちゃぐちゃにされているのを苦笑いで見守っていた白髪オールバックで前髪が数本ぴょこんとしているスーツ姿の大人の人だ。

オールバックの人って少し怖いイメージがあるけど...なぜかこの人は全然怖くない、むしろ優しそうだ。

そう確か名前は真司さん、あの20歳前後に見える人たちばかりのメンバーの中で、一人だけ30歳手前位に見える大人は違和感あったのでよく覚えていた。


「確か、何処かの高校だったと聞いています」


「高校?...どうして?」


「依頼だからですよ」


依頼、ねぇ...そもそも依頼って、何をするのか全く聞いてないんだけど。

いや、全くではないのか、自殺を考えている人を救うだっけ?


(...私に救えるのだろうか?)


講釈垂れろとでも?同じく死にたがった私なんかが?...

同じように死を望んでしまった弱い私なんかに一体、何が出来るのだろうか?

なんて、不安は積もるばかりだった。



30分ほど車の中からぼけーと外を眺めつつ、ここまで来ると流石に人が少なくなったなぁ...なんて思っていた時。


(あ、あの子...)


その都の景色を眺めていた時、ふと目に留まったのはいかにもガラの悪そうなのに肩を組まれている男の子。

もしかしたらただの友達かもしれないけど...


(大丈夫かな...)


少し心配そうに見つめた時、車が止まった。

何やらクッキーさんとウタさんが慌てた様子で車から飛び出していく。


「じゃあ、僕たちは少し仕事の為の交渉をしてくるから、真司とレナは車で待ってて」


とか言って、どこか適当な場所に車を止めて、路地裏へと笑顔で消えていった死神。

依頼のための交渉って、一体何?それもこんな人気のない場所に用事って...


(なにか...や、やばいことに付き合わされようとしてる?...)


脳裏に浮かぶのは真っ白い粉を、何も聞かされずに運ばされている私。

...自殺者への救済って、まさかそういう事なの?

幻覚見せて人生の辛さを忘れさせるってことなの?...いやそれどころか理性も飛ぶような気がするんですけど?...


「あの人たちは一体何の交渉に行ったんですかね...」


「まあ、確かに怪しく映りますが...大丈夫ですよ、彼らは信頼できる」


車の中には先程の大人の人、真司さんと車の中で二人きりだ。

全然喋ったことのない人と二人きりは普通の人なら辛く気まずいだろうけど、私には無効だ。

何故なら私は、こういう状況を想定しての完璧な話題作りの心得があるのだ。

というかむしろプロと呼んでくれても過言ではない!


(そういえば名前...真司さん、か...)


そういえばこの人は名前が私と同じように、ちゃんとした名前を付けられている。

もしかたら、名付けにも何か理由があったりするのだろうか?

共通の話題があるわけでもないしそれとなく聞いてみる事にしよう。


「その、真司さん...でしたよね」


「ええ、そうですが...別にさん付けはしなくても結構ですよ?」


「一応年上ですから...その真司さんって名前が、皆と違ってあだ名じゃないんですね」


純粋な疑問と、気まずい空気にならないよう、といった意思を込めて質問したところ、真司さんは小さく笑っていた。


「そうですね、一般的な人が付けられそうな名前ですが...不和さんは、どうしてその名前を付けられたのか理解していますか?」


「理解、ですか?」


「ルークさんは思い付きで名前を付けているわけじゃありませんよ、確かな意味があって付けてるんです」


意味、名前に意味を...

本来名付けは生まれてくる子供に対し、祝福やそうなってほしいという願望、自分の好きなモノや夫婦の名をとるなどして、付けられる。

なら、彼は私たちを祝福してくれているのだろうか?...罪人となったことを?それはあまりに不謹慎な気もする。

それからしばらく、うーん、と首を傾げ悩んで考えてみるものの全く答えは浮かばず。

だが、結論は簡単だった。


「親になったら分かるかもですね、若輩者の私にはさっぱり」


今の私にはよく分からない、という事だ。

実際になずける立場になればわかるものなのかもしれない。


「そうですか、では老輩者の私からの意見も言わせてもらいましょうか」


「老輩者って...」


まだそんな年でもないでしょうに。


「あくまで、クッキー君や私が考えた仮定に過ぎませんが、少し話した末に出した結論は、戒めです」


「戒め...ですか?」


「ええ、名は体を表すように、私の真司という名は...どんな時でも真っすぐ生きてきて、真っすぐ過ぎてしまった私の罪をかたどっているんだと思います」


そう口にしていった真司さんは、とても苦苦しい何かに浸っているようで、そっと視線を窓の外へとずらしていた。


「じゃあ、私の名前も...」


不和、そう聞いて思い浮かぶのは、和と濁され称された友情、不なる友情。

要するに死神は、私が自分を偽って接し続けた偽りの友情関係を、名前で戒め、縛りつけているのだろうか?...

二度と同じことを繰り返さないように。


「なんていうか...凄い遠回りですよね」


そういった死神の、不器用さに微笑が口元から零れ落ちる。

一体、この死神の真意に一体何人の人が気付けるというのだろう。


「確かにとても遠回り、ですがどれだけ僕達を大事に思ってくれているのか、コカトリスの父親としてとても彼らしい、なんて思いませんか?」


「.....」


そう、にこりと優しさに溢れた笑顔を返されてしまったが、私はそこで言葉を詰まらせてしまった。

私は、それ程死神について知っているわけじゃないのだから。


「皆さんは死神..ルークの事を信頼しているんですね」


「...そうですね、信じていてなおかつ、返し切れない程の恩義を感じている」


「恩義、ですか...」


恩は、私にもある。

死神に私は救われた、いや救われたなんてそんな尊大なモノじゃなかった。

私は、我儘で自分勝手で、ただ死神に優しく、厳しく叱られただけなのだ。


「真司さんは...何を、してしまったんですか...」


口にしてから、ハッとした。

そんな軽々しく聞いて良いわけがない。

優助さんにも言われたばかりだったのに...

申し訳なさそうに、目を伏せた私を見て、真司さんは怒るでもなく優しく微笑んでいた。


「...少し、断片的ではありますがお話をいたしましょう、あまり聞いて面白い話ではありませんが...それでも良ければ...」


そう、真司さんは何も知らない私の為に、辛そうに苦笑いのようなものを浮かべて語り始めた。


「詳しくは省きますが、私は中小企業で働く一般的な冴えないサラリーマンでした。その時、私は将来を誓い合った妻がいたんです」


「.....」


「将来一軒家を買うため、いつか生まれるであろう子供の為にと必死に働いていました...それだけで満足していればよかった。...ただ、私は傲慢な人間でした」


口にするのは懺悔、後悔がにじむ声音で、聞いているこちらも緊張してのどを鳴らした。


「私はルールに厳しく、会社でもルールを破らせない面倒くさい人で周りからも疎まれていたでしょう、そんな風に会社で過ごすうちに偶然と、ある事を知ってしまいました。私の会社の上司は麻薬の売人だと。会社の人間に法外な値段で売り捌き、優秀な人間を麻薬の中毒性を使い自分の奴隷にしている人、当然私が見過ごせるわけがなかった...ちっぽけな、力もない癖に正義感を振りかざして...私は彼を訴えた」


「.....」


「結果...妻は死に、私は犯罪者に陥りました」


「.....え?ど、どうして...?」


「売人の仲間に、報復に放火されたみたいなんです、妻を逃げ出せないようにロープで手首手足をがんじがらめにして閉じ込めた状態でね。...しかも、放火したのは私だと警察に疑われていてね...あの時は、本当に、まいったよ...」


自嘲的な物言いに、似合わない笑顔。

人間は自分が自分を傷つけるとき、つい笑ってしまうものだと私は知っていた。

それは、誤魔化すための笑いなのか、防衛本能とでもいうべきなのだろうか...

かつて、気持ちの悪いくらい自分に対して笑っていた記憶が深くよみがえる。

...今思い出すだけでも、相当胸に来るものがあった。

真司さんもこんな思いをしながら語ってくれたのだろう。

何を..軽々しく聞いてしまったのだろう...私は...


「あの...ごめんなさい、辛いことを思い出させてしまったようで...」


「大丈夫ですよ、これは...私が一生背負っていく、大切な記憶ですから...」


その一言に私は打ちのめされそうになる、つい自分と比べてしまう。

...強い。

この人はとても強い人なんだと、私は実感した。

そんな風に口にして、心の中でも思い続けることが出来たらどんなにいいだろうか。


(...私には...無理だ)


どうやっても、自分がしてしまった壮大な我儘を受け止める自信がない。


「...真司さんは強いですね」


気づけば口にしていた、きっとそれはちょっとした嫌味のようなものだったのだろう。

けど、そんな私の悪態にも嫌な顔一つせずただ笑いかけてくれる。


「...私は、弱いですよ...ただ凄い人たちに救われたから、私も...このままじゃいけないんだって思っただけです...」


そんな風に語る、真司さん。

私の目に映った強い人が口にする、凄い人たち。

だから、私は知りたくなった。

彼がここまで言う、死神達の事を。


「そういえば...どうして、私なんかにそんな大切な話をしてくれたんですか?...」


見ず知らず、それも初めて喋った人に話せるようなものではないはずなのにどうして...

その疑問には答えてはくれなかった、ただ返事は返してくれた。


「もう...()()()()()...」


小さく呟かれたその言葉...


「え、それって...いったい...」


返してくれた言葉の意味はよく分からなくて、それを聞き返すことは死神の言葉と...


「レナ~真司~、終わったよ~」


真司のあまりに真剣なその横顔に憚られた。

―だが、その顔は本当に一瞬の間だけで、すぐにいつもの柔和な笑みを浮かべては死神と言葉を交わし始める。

今のは見間違いだった?...そんなわけない、あれは何かを覚悟した人の顔だった。


(一体何が...)


「レナ~ッ!作戦会議するから降りてきて~!」


「ッ、今行くッ!」


考える時間もなく車から飛び降りると、死神に呼ばれ路地裏へとレナも急いで追いかけていった。

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