012 監禁される
上の階に戻ってみるとリビングには人だかりが出来ていて、その真ん中には見覚えのある白髪がひょっこりと飛び出していた。
「「「「ルークッ!」」」」
「ルーちゃんッ!」
感動的に、帰ってきた死神に喜々としてかけていく人たち、ああ慕われているんだなぁ...そんな風に私には見えた。
現実非情だ。
みんながルークの首を絞めていた、締め上げて腹部などを殴打しつつ両手両足を完璧に縛り上げている。
絶対に逃がさない、その意思がありありと伝わってきた。
「ちょ、グハッ!分かったからッ!みんな!一旦落ち着いてッ!...」
「はぁ?勝手に出て行って三ヶ月音信不通だったくせに?」
「落ち着け?落ち着いてますよそれはもう、ええ、とてつもなく冷静に...ぶちぎれてます、はい...」
「こっちがどれだけ心配したと思って...」
「あはははは...」
「「「ふざけるなぁッ!」」」
「ぶげふッ!?」
「俺達が一体何度勝手にいなくなるなって言ったと思ってるんだ!」
「分かってるの!?あんたを唯一の心のよりどころにしてる奴だっているのよ!?リリカなんて「捨てられた!」って泣いてたのよ!?」
「私の仕事倍くらい増えたんだけど...もうこれは駄目ね、許せないわ。最低一年は監禁しましょ」
修羅場だった。
さっきまで笑顔で笑いあっていたのに、死神が来た瞬間笑顔が憤怒に切り替わった。
言葉での言い合いというか、肉体言語による一方的な会話を始めてしまう。
「あ、あははは、少し待とっか?」
「そうですね...」
そんな状況を私と優助さんは苦笑いを浮かべ、見ている事しかできなかった。
「や、やぁレナ?元気にしてるかい?」
「...あんたは元気じゃなさそうだけど?」
約30分後、もう二度と一人だけで外出するな、勝手にいなくなるなという皆さんの意思から、両手両足を縛りあげられ、なおかつ死神の姿は、服に至るまでボロボロだ。
なんていうか、まるで性的に襲われた後みたいだ。
「ぼ、僕はだいじょうぶ...それよりレナ、ここの事って説明された?」
身体を軽く叩き汚れを落とすようにして、破かれ脱げかけている服を器用に口で引っ張り上げるとふよふよと浮かび始めた。
なんていうか、両手両足が使えなくてもそこまで問題がなさそう。
「うん、まあ多少は...」
「じゃあ、ここに住むことに納得してくれた?」
「住むって、私が?...いきなり納得できるわけないでしょ...」
「でも、居場所が欲しかったでしょ?ここはとてもいい所だと思うんだけどなぁ」
「それは...私もそう思うけど、いきなりここに住むって...私の物とか何もないし」
「でもさレナ、ここに住まないと帰る場所無いよ?公園とかに住む気なの?」
「何言ってるのよ、私は普通に家に帰っ..て.....あっ」
そこまで口にしてようやく思い出した。
私は、死神に願ったんだった。
自分の記憶を、帰る場所を、全て消してしまった、残ったのはただの肉の塊である私だけ。
「思い出した?レナは全部無かった事にしちゃったじゃないか」
「そう..だった、忘れてた」
なんて自分勝手なんだろう私は。
自分で願っておいて、その願いを都合が悪くなったら忘れるなんて。
そんなことしたって願ったという事実が消えるわけでもないのに。
「でも...その、みなさんは私を歓迎してくれたけど...私、何もないよ?」
「.....?」
「お金もないし、家事もそこまで上手じゃないし、何か役に立てるとは思えないし...私によくしてくれてもメリットがないのに...」
それは当然の疑問。
こんな場所に、お金も払わず、一方的におんぶにだっこで暮らせというつもりだろうか?
そんなの、どちらも苦しいだけ。
だったらいっその事...
「メリットデメリットで受け入れたり拒否したりするような人たちはここにはいないよ、それに―」
そんな疑問を鼻で笑った、笑い飛ばして答える。
それに何か勘違いをしているようだけど。
「メリットなら十分ある」
「え?」
何のことだろう、不思議そうに首を傾げたレナが真っ先に思い浮かべたのは...少しHな事で。
(う、うそ...まさかそういうつもりで?...)
頭の中でそう、死神にぺろりと食べられてしまうような妄想が展開されて...弾けるように顔を真っ赤に染め上げた。
仕方ない、良い年頃の女の子にそんなことを言えば勘違いさせてしまうのもしょうがないというか、どちらかというと勘違いさせた死神が悪いのだろう。
「優助、クッキーを呼んできてくれるか?」
だが、死神はそんなレナの心情に気づきもせずに話を進める。
「分かりました」
優助を見送りながら、ちらりとリビングに目を向けると誰もが睨みつけてくる。
外に出たいと言ったら殺されかねない、というかそもそも確実に外に出す気がない、という意思を感じる。
ちょっとだけ怖くて、情けない声で助けを求めた。
「う、ウタ~」
「なに~どしたの?」
死神に呼ばれて、近づいてきたのは最初の部屋にいた青髪の少女だ。
「今からレナに初仕事をさせようと思ってるんだけど、ついてきてくれない?」
「別にいいけど、どして?」
「ウタがついてくるならってことで、みんな外出許してくれるだろうし?」
「わぁ、打算的だぁ。でも、ま、いいよ」
そういったウタは、何とも言えない微妙な表情を浮かべてリビングの皆の所に向かった。
...―数分後、皆もどうやら納得してくれたようで、ウタが親指を立ててぐっとポーズをしてきた。
それにほっこり笑顔でぐっとポーズを返す。
「ルークさん」
「ん、何?真司」
良かった、納得してくれた。
マジで監禁される一歩手前まで怒られていたから心配だったけど、さすがウタ!と感心していると。
声をかけてきたのは今日朝早くから、私用で連れてきてしまったスーツ姿の大人の男、真司だ。
「それ、私もついていってよろしいですか?」
「ああ、別に構わないけど...朝早くから出て疲れてない?」
「それを言うならルークさんもでしょう?」
「まあ、そうだけど...僕死神だから、歩いているわけでもないし疲れてないよ」
なんて軽く真司と会話をしていると、上からクッキーが下りてきた。
とてつもなく眠そうで死んだような顔をしているが、服装は外出用、既に何の用か分かっているらしい。
「今日の朝、例の件頼んできてくれたのか?」
「うん、ついでに買い物もしてきたよ。それで悪いんだけど、三人連れてってもいい?」
「すまん助かる...俺は別にいいぞ、それにその方が作戦にリアリティも出るだろうし」
クッキーの了承を得ると、うんうんと頷きながら後ろでずっと動かないで何か考えているレナの手を取った。
「レナ、君の名前は...今から不和麗奈だ」
「は、はい!...え、名前ってそういう感じなの?あだ名的なのじゃなくて?」
クッキーとか、ウタとか、優助さんは違うけど...完全にあだ名だよね?
なのにどうして、私だけ苗字?
困惑気に周りの人達に視線を飛ばすが、みんな一様に何かを考えているようだ。
「さて、じゃあ行こうかレナ?」
「え、行くってどこに?」
「君のメリットを確認しに、だよ」
死神はただそうやって微笑んでいて...
レナは顔をぼっと紅く染めた。




