010 日常的な刺激
多くの人は、人生に刺激が欲しい、変わった事が起きないかな?なんて思ってる人が多いと思う。
かく言う私も少し前までは同じことを想っていた。
だけれど...
実際の所、いきなり知らない家で目が覚めたり。
可愛いロリッ子と明らかに不良みたいな少年が部屋に居たりしたら?当然戸惑い、変わったことが起きている事に喜ぶよりも恐怖が先に来てしまうと思う。
つまり、結局人間誰も変わった事など本気では望んではいないらしく、私もその望んでいない人間の一人だという事。
それを私は、今日思い知った。
部屋から出ると、いくつもの扉のある廊下で壁掛けの文字が貼られていて、【クッキーの部屋】とかいくつものデコレーション?された扉が目に入る。
そんな風に色々と見渡しながら螺旋状の階段を下りていく。
そこに広がっていたのはオシャレな空間だった。
どこぞのコテージみたいな...いやどちらかというと海外のホテルよりだろうか...シンプルな作りだけど凄く奇麗だ。
そんな場所には、何人かの人達が座りながらお喋りしていたり、ソファーにすわりテレビを見ていたりと、まるで大学生達のシェアハウス生活を見せられている気分だ。
「ヤッホーみんなッ!」
階段を下りながら隣の少女が元気よく声をかけると、何人かが笑顔で手を振ってくれて、残りの人たちは視線をちらりと送ってくる、多分私に。
その人達の中に、死神の姿は無い。
「こんにちはウタ、隣の子が新入り?」
視線で死神の姿を探していると、一人の茶髪の男の人が話しかけてきた。
なんていうかこんな事言ったら失礼なんだろうけれど、さっきの人と違って雰囲気も顔もとてもイケメンだ。
高校とかに居たらもうファンクラブとかできるレベル。
まあ、私のセンサーにはあまり引っかからないけれど...
「僕は優助、これからよろしくね」
「あ、はい...って、ちょっと待ってほしいんですが...」
「ん?どうしたの?」
「何も説明してもらってないって言うか...結局ここは何処ですか?」
「そういうのはルーク...死神に直接言って欲しいんだけど...」
ぐるりとリビングを優助さんが見渡すが姿はない。
「死神いないの?」
レナが呟くと、広間で椅子に座りながら他の子と雑談をしていた、何故か猫耳をつけている女の子が教えてくれた。
てか、凄いに合ってるなぁ猫耳...私もそれくらいに合ってたら人前でも堂々と付けられるんだけど...
「ルーちゃんなら今朝、ジーくんと仕事に行ったよ〜」
「そっか、じゃあしょうがないね」
仕方ない、と小さく咳き込んだ優助さんは私に振り向いて笑顔いっぱいに手を広げ告げた。
「ようこそ!ここは罪人の溜まり場コカトリス!」
「優ちゃん、ルークに似てる!」
「優助今度から死神の代わりやれば?」
言い方や言葉に仕草、レナを除く他の人はその優助さんの喋り方に、死神を重ねているらしいが私はぴんと来ない。
もしかしたら、私以外の人には死神が同じことをしているのかも。
「ここにいるのは皆、何かを抱えて何かに苦しみずっとあがき続けた、罪人たちだ。...皆色々な理由があってここにいる」
その言葉を一字一句逃さず、レナはしっかりと聞いていた。
罪人、という言葉に少しだけ違和感を抱いたけれど。
「君に一体どんな罪があるのかは知らないし無理に聞く気もない、ただ!僕たちは同じ罪人である君を歓迎する、それだけだ!」
その発言を始めに、一気に歓迎会ムードだ。
歓声が部屋に響き渡り、一気にパーティが始まってしまった。
お酒を飲む人たちに、ゲームで盛り上がる子達、仲良く人生トークに花を咲かせる子達...
そんな中、渡されたジュース入りのコップ片手に全くついていけない私は、部屋の隅と一体化しようとしていた。
(これ絶対に歓迎会じゃない、ただ遊びたいだけでしょこの人達...)
というかそもそも本当に私は、なぜここに居るのだろう。
そもそも歓迎するとは?私は一体に何に歓迎されたの?分からない。
説明もまったくなしに、分からなさ過ぎて怖くなってきた。
(これ...逃げた方がいいのかなぁ...)
よくわから無いし、知り合い一人もいないし。
普通に考えて、この人たちが本当に死神の知り合いであるという保証はないわけで...
常識人たる私としては、いきなり知らない人の家のベッドで起きたら警察案件なのですが...
「...楽しんでるか」
「ひゃッ!」
そんな不安と、どうしようかな、という気持ちでいっぱいの私に...声をかけてくる人がいた。
いきなりの事にびっくりして振り向くと、その人はとても地味な、黒髪に死んだようなやる気のない目、まるでさっきのクッキー?と呼ばれてる人にそっくりな人が後ろに立っていた。
「す、すまない...驚かせるつもりはなかったんだが...」
「いえ、私こそすいません...クッキーさんの...兄弟、親戚の方ですか?」
「え、あ...いや、なんだクッキー本人なんだが...」
「え、クッキーさん?でも、髪の色が...」
その疑問を述べたが、それは割り込まれた人によって邪魔された。
「髪の色戻したんだな、やっぱそっちの方がお前らしいよクッキー」
「うるせぇ、それは日陰者らしいという意味の、俺に対しての皮肉か?...後お前がクッキー言うな」
その二人の何気ない会話、なんかあまり仲良さそうに見えないけれど...
どちらかというとクッキーさんの方が鬱陶しそうにしている気がする。
それで優助さんもそれが分かっていて絡んでいる。
思ったよりも性格悪いのかな優助さん。
「冗談だよ、それより...彼女の案内を頼めるかい?」
「え?私の、ですか?」
「なんで俺が...そういうのはお前の分野だろ」
「まあ、僕が案内してもいいんだけどね...やっぱ新人の相手は君がやるべきだろうからね?それじゃよろしく頼んだよ」
優助さんは別れ際に一度私に笑顔を向けると、クッキーの声など聞かずに騒ぎの中心へ行ってしまった。
「...ちょっ待ッ...聞こえてねえな...」
はぁ...と深くため息を吐きながら「これイジメだろ...」とぼやき、レナに視線を向ける。
その鋭く淀んだ目に睨まれて、一瞬ビクッと身体を震えさせてしまった。
「まぁ...なんだ、この様子だとろくに話聞いてないんだろ?...俺なんかでいいのなら詳しく説明するぞ...」
「え...」
「い、嫌ならいいんだ嫌なら...」
慌てて拒否すると、クッキーはなんていうかバツの悪そうな顔をしながら頭を搔いている。
こういう事に免疫がないんだろう、なんか見たことがある、クッキーはクラスの隅で一人、本を読んでいるような、いうなれば陰キャ?とでもいうべきか。
(それなら、私も楽なんだけど...)
私はとっくの昔に陰キャも陽キャも攻略済みだ。
もしクッキーが陰キャでボッチ系ならば、私の知恵で仲良くなることが出来るけど...
そこで私はハッと閃いた。
(このカオスな中で...唯一仲間が出来るのは大きいッ)
はっきり言って、多分クッキーさんもあまり友達がいなさそうだし、唯一仲間が出来るのはデカいし。
ぶっちゃけこの場になじんでいない感が凄い、というか本人あまり楽しそうにしてないし。
多分この中でもあまり内側に入れない人間なんじゃないだろうか...
(ついでに、ここの説明もしてもらえて一石二鳥ッ!)
なら、っと目の前のクッキーと友達になるために、小さく深呼吸をして昔のスイッチを静かに入れる。
思い出せ、思い出すんだ。
恋愛趣味レーションゲームにて【落とし姫】と呼ばれた実力をッ!!あまたのイケメンから根暗まで落としてきたあのインスピレーションをッ!
「案内よろしくお願いしますね?クッキーさん?」
完全にスイッチの入った私は、俯き気味の彼の顔を覗き込むようにしながら、笑顔で笑いかけると少し照れたように頬を若干紅く染めながら。
「お、おう」
とだけ呟いた。
その、あまりに免疫のない初々しい反応に作り笑いじゃなく、本当に少し素の笑みがこぼれた。
【落とし姫】これなんのアニメのパロデイかわかる人いるんかなぁ...




