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『真っ白』

作者: 鈴木鈴蘭

 目を開けるといつもの天井が視界に入る。まるで体に重りでも入っているかのように体が動かない。なんのやる気も出ないが私は、ただただ思考を巡らせていた。

「はぁ、死にたい。」

 思わず口からでてしまう。さっきからため息しかてでこない。まるで黒い重い何かに全てが包まれているみたいだ。

「じゃあ僕が貰ってもいいかい?」

 どこからともなく、なんとも陽気で楽しそうな声がした。今の気分と正反対なその声にイラつき、更に心が重くなる。はぁ。


「あれっ?」

 私は思わず声を漏らした。誰の声だろうと思わず辺りを見渡すがそこには見慣れた私の部屋があるだけだ。


「ふふふっ。そんなんじゃ僕のこときっと君はわからないね。」

 また楽しそうな声が聞こえる。その声にどっと疲れる。あぁ、ついに私は疲れすぎておかしくなってしまったのだろうか。幻聴まで聞こえだしてしまった。思わず起こした体を再び脱力が襲った。

「何がそんなに疲れているんだい?」

 また声がした。なんだか全てが面倒な気分になり考えることをやめにした。

 

「あんたが誰なのか知らないしどうでもいいけど、その声やめてくれる?なんだかその声を聞いてると余計に疲れる。」


「ふふっ僕なんだか清々しい気分なんだ!」


「あっそ、はぁー。どうでもいいけど、なんで急に話しかけてきたの?あんた誰?何?私になんか用でもあんの?それともら恨みでもらあんの?」


「あれっ、僕のことは幻聴にするんじゃなかったの?」


「えっ?あーじゃあもうそれでいいわ。」

 さっき私声に出してたっけ?っと考る。しかし、このよくわからない状況に頭がついていくはずもなく、なんだか考えれば考えるほど頭が痛くにりそうでやめにした。

「君はもうその命いらないんだよね?」

 えらく陽気に聞いてくる。


「えっうん。なんだかもう疲れたんだ。人生に。なんで私だけこんな思いしなきゃいけないんだろう。この先もずっとこれが続くのかと思うとゾッとする。」


「へぇーそうなんだ。」

 今度はえらくつまらなそうな声だ。こんなわけのわからないやつに何を語ってしまっているんだろう。でも、そのそっけなさが余計に心に刺さる。やっぱり私はこの世界に必要な人間じゃないんだ。

「ワッハッハッハッー、君は面白いことを考えるんだな、ハハッふうー、息ができないよ笑」

 えっ?いや、面白いってなに?私面白いこといった?と頭が再び混乱する。と同時にやっぱり私は価値のない人間なんだと思う。

「ぶっふぉっ、ハァーッハッハッハッ価値って、ハハッ」

 こっちは混乱しているのと、落ち込んでいるので頭がいっぱいいっぱいなのに、吹き出してまで笑うその声にイラつきが止まらない。

「なんなんだよ、さっきから!そんなに面白いこといった?」


「あれっ怒っているのかい?」

 

「そうだよ!わからないの?」

 

「何に怒っているんだい?」

 

「何にって、あんたの存在全てにイラついてんだよ!」

 

「僕の存在?僕のことがわかってないのに?」

 

「...。」

 

「君は僕の存在に怒ってるんじゃない。自分の存在価値が勝手に否定された気分になって怒っているんだろ?」

 

「だってあんたが!」

 

「僕は君になにか直接的に君は要らないと言ったかい?」

 

「...言ってないけど!でも、そういう雰囲気だった!」

 

「でも、言ってないだろ?それに僕は君のこと知らない。名前すらも。それに、それ程君のこと興味ないよ僕。」

 

「ほらっ!やっぱり興味ないじゃん!」

 強気で答えたが不覚にも心に刺さる。

 

「君は存在も何もわからない僕に興味をもって欲しいのかい?どうして?」

 

「えっ...。」

 言い返そうと思ったがおもわず口ごもる。さっきまでイラついていたのに、その気持ちはふっと消えた。確かに、なんでこんなわけのわからないやつに私は興味を持って欲しいと思ったのか?でも、興味がないと言われて傷つかない人がいるのか?誰にだって興味を持たれたら嬉しい。


「それだよそれ!フフッ。君は結局誰かに自分の存在価値を認めて欲しいんだろ?あたかも貴方が生きていていいですよって言われてるみたいだから!」

「君は自分の存在価値を他人に委ねているのかい?」

 

「そんなこと!・・・。」

 否定しようと思ったが、否定出来ない自分がいた。なんだかそのことにもイライラした。さっきから、こいつの言葉に心の中の黒い膜がモヤモヤとと動く。


「そんなこと言うあんたはどうなんだよ!あんただって誰かに興味を持ってもらえると嬉しいだろ?それに、私もあんたのこと興味ないから!」

 言い放って、少しやり返せた気持ちになった。

 

「うん。そうだろね。」

 思いがけずあっさりとした反応に少し驚いく。

 

「えっ、それだけ?」

 

「ん?期待していた反応と違っていたかい?」

 

「何も思わないの?」

 

「何か思えばよかったかい?そもそも君にとって僕はなにかわからない存在。興味もなにもなくてあたりまえじゃないか。それに、人間人のことなんて自分に関わりがなければ興味ないだろ?」

 

「・・・。」

 

「実際君はなんでこんなわけのわからない存在の僕にこんなにエネルギーを使って会話をしてくれているんだい?」

 そう聞かれて何も答えられなかった。確かにどうして自分はこんなに怒っていたんだろう。さっきまで絶望していたのが、なんだか嘘のようだ。

 だんだんこのよくわからないやつとの会話も悪くないなと思えてきた。それにしても、こいつの会話はなんだか妙な気分になる。

「因みに、君は僕のこと下にみてるだろ?まぁ、僕はどうでもいいけど。」

 

「えっ?いや別に下とか上とか特に考えてないよ。君が誰かもわからないのに。」

 

「でも、上にはみてないよね?尊敬している人、上にみている人に君は今のように声を荒らげるのかい?」

 

「いや、そんなことするわけないだろ!」

 

「うん、だから君は(怒り)という感情を使用する、一番簡単な方法で僕を従わせようとしていただろ?でも、僕に自分の意見を通したり共感してもらう必要があるのかい?」

 

「・・・いや、ないね。」

 なんだかわけのわからないことをいうやつだなと、思いながら素直に答えた。

 

「そう!でも、これは僕だけじゃなくてほかの人にも当てはまるんじゃないかい?全くの他人ならなおさら、近い人でも。」

 

「いや、近い人や親しい人なら共感して欲しいと思うよ!」

 

「まぁそうかもしれないね。でも、共感してもらって何になるんだい?」

 

「共感できると、この人も自分と同じ気持ちなんだなってわかって嬉しいじゃないか!」

 

「嬉しいだけ?」

 

「それに仲良くなれたり、身近に感じたりするだろ!」

 

「じゃあ君は共感できない人とは仲良くなれないの?」

 

「そんなことはないけど、難しいだろ?」

 

「へぇ、そうなんだ。ところで君はもし今の世界の規則に共感できなかったらどうするんだい?」

 

「えっそれは・・・でも、規則は規則!共感とかの話じゃないだろ!」

 

「ふふふっそうかもしれないね。じゃあ、規則は必ず全ての人に共感、納得できるように作られているのかい?」

 

「そうに決まってるじゃないか!」

 

「へぇ、そうなんだね、じゃあなんで犯罪がおきるんだろうね。ふふっ不思議。」

 笑い事じゃないだろ!と思いながらも、ふと考えてしまう。確かにそうだったら犯罪はおきないよな?いや、でも、犯罪は悪いことだ!

 

「ふーん、悪いってのは誰が決めたんだい?」

 

「えっ?いや、知らないけど良いことと、悪いことくらいわかるだろ!実際悲しんでる人がいるんだから!」

 

「そうなんだね!」

 そうなんだねってこいつ、善悪の区別もつかないのか?えっ今までどうやって生きてきたんだよ、よく捕まらなかったな!いや、そもそもこいつ捕まるとかそういう世界にいるのか?こいつと話してるとますますわけのわからない気分になってきた。

 

「そうだね、僕は君にとっての善悪はわからないよ!だって僕はきみじゃないもの!ハハッ」

 

「いや、私じゃなくても、自分がされて嫌なことくらいわかるでしょ!」

 

「うーん、そればっかりは君になってみないとやっぱりわからないな!まー嫌だろうなと考えることはできるかもしれないけど、本当に同じ気持ちになることはできない。」

 こいつはいったい何をいっているんだ?感情がないのか?なんだかどっと疲れてきた。

 

「フフフッ、でも君にだって今の僕の気持ちなんてわからないだろ?」

 

「君に感情があるとは思えなかったけど?」

 

「そうだね、僕は君に僕の気持ちを知って欲しいと思ってないから!」

 

「?じゃあ、どうして君は私と会話してるの?」

 

「確かに!会話って何かを伝えたりする手段だもんね!うわー言葉だけで感情を伝えるって難しいことしてるね!」

 ますます訳がわからない。こいつはいったいなんなんだ?同じ人間じゃない存在なのか?さっきから全く常識というものが通じてない。

 

「おっいい調子だね!その考えこそが僕の存在のヒントだよ」

 

「はぁ?どういうことか、わけわからないんだけど!」

 

「わからなくて当然さ!今の君には!」

 

「いや、当然って、ちょっとは教えてくれてもいいんじゃない?」

 

「いや、そこはやっぱり自分でみつけてもらわないとね!きっと僕が答えを提示したところで、君は僕をみつけられないから!」

 ??もー本当に訳がわからん。

 

「よく分からんけど、君が私と違う世界線にいることだけはわかったよ。」

 

「へぇ〜そうかい?」

 

「うん、とにかく君にはこの世界の常識は通じなさそうだ。」

 

「そうだね、僕は常識なんて気にしたことないから!」

 

「へぇ、人生楽しそうで羨ましいよ。はぁ。」

 この訳の分からないやつはきっと自分と違って全てに疲れることなんてないんだろうな。そう思うと自分の人生ってなんなんだろうと思えてきた。

 

「えっ?君は人生の意味なんて考えてるのかい?!フフッ本当に君は面白いね!」

 

「誰だって一度は考えるだろう?君は考えたことないの?」

 

「うん、僕はかんがえたことない。」

 

「えっ、それって君は人生になんの目標もないってことかい?生きる意味のない人生なんてつまらないだろ?」

 

「別につまらなくないよ!だって目標とかこうあるべきって決めた人生なんてそれこそ疲れるじゃないか!ふふっ人生に意味なんてないのに、そんなこと考えるなんて時間が無駄だと思わないの?それに、他人の価値観に振り回されて自分の価値を見失ってしまうよ!」

 

「人生に意味なんてないって?うーん、わからないな。やっぱり君とは一生共感出来なさそうだよ。」

 

「うん、当たり前じゃないか!別に誰にも共感されなくたって生きていけるし、自分がこう思うということをすれば人生は楽しいんだ!」

 

「そっか。なんだかよくわからないけど、君は楽しそうだね。」

 

「うん、楽しいよ!伝わった?」

 

「うん。」

 

「そっか、よかったよ!僕もようやく言葉で伝えることに慣れてきたかも!」

 はぁ、よくわからいけど、こいつは嫌味も通じないのか。本当にさっきから自分の常識がなんなのかわからなくなる。

 

「君にとって常識ってそんなに大切なものなの?」

 

「そうだよ、常識がなきゃこの社会で生きていけないだろ!」

 

「そうなんだ。じゃあ、常識がない人はどうなるの?」

 

「・・・そんなの、社会的に死ぬんだよ。そんな訳のわからないやつと関わろうとする人なんていないだろ!」

 

「でも、君は今僕と話しているよね!君にとって僕は常識のないわけのわからないやつなんじゃないの?」

 

「はぁ、まぁとにかく、この社会で生きていこうと思ったら必要なの!」

 

「へぇーそうなんだね!なんだか大変そうだね!笑」

 

「はぁー、いいよな、君は。気楽そうで。」

 

「うん!ところで、君はその命いらないんだよね?僕がもらっていい?」

 

「えっ?あーっ・・・。」

 唐突なその言葉に驚く。そういえば、最初もそんなこと言っていたな。私がずっと望んでいたことなのに、何故だがか肯けない自分がいる。

 

「君はその命いらないんじゃないの?」

 

「いや、そう言ったけどさ、もう少しなんかないわけ?」

 

「ん?何が?」

 

「いや、うん、もういいよ。」もうこいつに常識を求める自分がバカバカしくなってきた。

 

「私の命なんて何につかうのさ。」

 

「それは秘密。でも、僕にとっては大切なものなんだ。」

 なんだか、始めてこいつに求められた気がした。いや人生において、自分の命が始めて役にたつのかと思うとなんだかわけのわからない気持ちになる。自分の存在価値を肯定された気分だか、このわけのわからないやつに自分の命が奪われるのはムカつく。それに、どうしてこんなやつの為に私は死ななければいけないんだよ。なんだか再び腹の中心から怒りが湧いてきた。

 

「ふふっやっぱり君は死にたくない。死ぬ覚悟なんてないんだろ?」

 

「……」

 癪にさわる。誰だって死にたくないし、死ぬ覚悟があるやつなんていないだろ。

 

「やっぱりそうなんだね!ふふっ君は死にたくないって怒れるし、エネルギーを使えるじゃないか!素晴らしいよ!」

 

「・・・」

 

「あっ僕はそろそろ時間だから!こんなに誰かと言葉を交わすのは始めてで楽しかったよ!最後に一つだけいいかい?君にとって僕がよくわからないようなもので、他人をかえるのは難しい。誰もが自分のことで精一杯のこの世界で助けを求めることは時間の無駄さ!僕は君のこと否定も肯定もしない。だってそれが君自身だからね!」

 そんなことを言ってふっと声が聴こえなくなった。そこには、いつもの自分の部屋の風景だけがあり、なんの変化もない。

 だが、なんだかよくわからない奴との会話で、さっきまでの気持ちはどこかにいってしまっていた。

 ぼーっとしながら、奴との会話を考えた。

「なんだっんだろう。」

死にたいという思いすら否定される世の中ってどうかと思う。安楽死もあっていいんじゃないか。誰だよ可哀想って決めつけた奴。決めつけられるのが1番窮屈で可哀想になるんだよ。

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