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杖の男たち1

攻略対象5人の内3人の視点です

 ぼくは、この国の第三王子だ。

 それはだれが何を言おうともかえられない。

 もちろん、ぼくがそのことを()()()することはない。

 なぜなら、ぼくは王子として育ってきたからだ。


 城ではぼく付きのメイドがいて、ぼくが好きなものを出してくれる。

 食べ物も、おもちゃも、ともだちもだ。

 ぼくのともだちは、公爵(おじ上)の子供と、騎士団長の子供と、魔術師長の子供。

 剣も魔術もぼくは三人に負けるけど、一対一でたたかえばぼくの方が強い。

 なぜなら、ぼくは剣も魔術もそれなりに使える。

 じいやが言うには、ぼくはバランスかんかくが良いんだそうだ。

 剣で押されてしまえば、すきを突いて魔術を。

 魔術で押されてしまえば、すきを突いて剣で。

 だから二対一や三対一だと負けてしまう。

 でも、ぼくの兄さまたちは違う。

 兄さまたちはぼくより強いしカッコいいしぼくのもくひょうでもあるけど、さいきんの兄さまたちはどこか変。

 理由は簡単。

 母さまに近寄るなって言われていた。

 母さまも変なことを言うなあ、とぼくは思うけど、それが母さまにとって安心につながるなら何も言わない。

 別に兄さまたちと遊んでいたことを言わなければいい話だから。

 兄さまたちはぼくと遊んでくれるとき、いつもかわいいと言ってくれる。

 ぼくはそれがうれしいので、いつも笑う。すると、兄さまたちはますます喜んでくれる。


 けれど、幼稚舎に入るその日。

 ぼくの前に立った女の子は、ぼくのかわいさなんて目じゃないくらいかわいい女の子だった。


 フィーリア・レギス男爵令嬢。


 じいやが家紋から女の子が誰なのか教えてくれた。

 口の中で声には出さないで、その名前を呼んでみる。

 体があつくなった。

 けれど、フィーリアはぼくをすこしだけ見たあと、何もなしで教室へ行ってしまった。

 ぼくはちょっとくやしかったけど、教室へ入ってものすごく、くやしくなった。

 ぼくには何もなかったフィーリアが、先に教室に来ていた女の子にわらいかけている。

 じいやが先に来ていた女の子がアリスティ・マルキシオース侯爵令嬢だと教えてくれたけど、ぼくの耳には入っていなかった。

 たたぼくは、アリスティ・マルキシオースをうらやましく思うしかなかった。




 ※※※※※※※※※※※※※※



 ぼくは好きで公爵家(この家)に生まれたわけじゃない。

 ぼくは人より賢かった。

 だから、公爵(父上)が何をしているのか大体知っている。

 少なくとも、陛下は何をしているのか知っている上で、放置しているらしい。

 ともだちのネズミが言っていた。


 ともだちと言えば、ぼくにはともだちと言える人間がいない。

 従兄弟でもある王子達は、自分達がどういう状況下で王子でいられるかは知らないだろうし、ぼくも教える気はない。

 ただ、王子なのにそれくらい分からないのかと、どうしてそんな人間の下につかなければならないのかと思う。

 そういう意味では第三王子が一番ひどい。

 ほしがるものは高価でないものの、我慢することをしない。

 ともだちがほしいと王子が言ったせいで、ぼくと騎士団長の子供と魔術師長の息子が宛がわれた。

 こっちはそんな気なんてないのに。

 でも公爵(大人)の命令は絶対で、ぼくは仕方なく第三王子と馬鹿げたともだちごっこを続けている。


 今日も今日とてともだちごっこを続けて幼稚舎に来てみれば、後ろにいた馬車から降りてきた女の子が印象的だった。

 家紋からレギス男爵の子供と分かる。

 隣を見ると王子は実に間抜けた顔をしていたが、自分も似たような顔をしている自覚はあった。

 それほど印象的な女の子だった。

 ちらり、と自分達を見たがそれも一瞬のことで、女の子はこちらを気にすることなく通りすぎる。

 でも通りすぎる時に見た女の子の瞳に、ぼくは子供ではない光を見た気がした。

 あれは大人と同じ光をしている、つまりぼくと同じくらい物事を理解している目だ。

 ぼくは久しぶりにわくわくした。

 隣の王子なんか放っておいて、ともだちになりたい人間を見つけた気がした。

 なのに彼女はぼく達に見向きもせず、マルキシオース侯爵令嬢と楽しそうに話している。

 ぼく達には向けない笑顔で。

 それは、ぼくに向ける笑顔だ。

 そうあるべきだ。

 ならば。

 去っていった彼女を想いながら、これからどうしようかと考えるのは実に楽しかった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※



 おれは、この国の騎士団長のこどもだから、いちばん強くならなきゃいけない。

 父さんもそれをみとめてくれている。

 だから、父さんが休みの日は一日付き合ってくれる。

 騎士たれ。

 今はまだ、いみが分からないけど、いつか分かる日がくる。


 うちは騎士団長のかけいと、母さんが言っていた。

 父さんの父さん、つまりじいちゃんも、そしてじいちゃんのじいちゃんも、そのまたじいちゃんも騎士団長だったらしい。

 どうしてか分からないけど、おれもこのままいけば騎士団長になるとか。

 で、そんなある日に、おれは城へつれていかれてこの国のだいさんおうじ(第三王子)のともだちになるように言われた。

 はじめてあったそいつは、おれよりちいさいくせに強かった。

 もちろん、剣ではおれの方が強かったけど、おうじはきようにまじゅつ(魔術)を使って、おれを負かすことにせいこうした。

 くやしくなったおれは、しばらく城に行かなかったけど、おうじがさびしがっていると父さんに言われていやいや城へいった。

 久しぶりに会ったおうじに泣いてとびつかれたのはおどろいたけど、その泣きがおが女の子っぽかったのはおれだけのひみつ。

 負けたことがくやしくておうじのかおをまともに見てこなかったけど、よく見たらすごいかわいさで、おれの中では守ってやらなきゃならないヤツになった。


 ところが、ようちしゃへおうじが入るからおれも入らなきゃならないとまっていたら、おれの中で守ってやらなきゃならないヤツがもう一人ふえた。

 おうじも男にしておくにはしんじられないくらいかわいいけど、おうじからおくれてやってきたばしゃからおりてきた女の子は、おうじよりかわいかった。

 おうじを見ることもなく、ついでにおれも見られることもなく、女の子はおれたちの前をとおりすぎる。

 女の子が見えなくなると、あわてておうじの二人のともだちである公爵の息子と魔術師長の息子と女の子のあとをおった。

 そして、花のようなえがおを見た。

 その日は、その子から目がはなせなかった。

 ずっと見ていたいと、思った。

 これからも、ずっと。



公爵子息>第三王子>騎士団長子息の順で漢字とひらがなの比率が変わります。

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