97.アティ(4)
シガンはアティを連れて山に来ていた。
ゴブリンが集落を作っている可能性が高いから、棒倒しで探すためだ。
前にゴブリンの集落を探索した際は、樹上や茂みから弓で奇襲を受けた。
その反省から、今日は斥候のアティを連れてきている。
ゴブリンとの遭遇戦はシガンとアティで問題なく片付いた。
なにせダンジョンの第十階層を踏破したアティだ、斥候とはいえそこいらの冒険者より遥かに修羅場をくぐっていた。
「シガンさま、樹上にゴブリン!」
「よしきた」
シガンは射程の伸びた影の手でゴブリンを引きずり落とし、刀で止めをさした。
「シガンさまのシャドウストーカー、便利だよね。ねえねえ、私も召喚をしたいんだけど」
「うーん。召喚のときには何が出てくるかわからないし、相手によっては戦って勝たないと従属させられないこともある。斥候のアティだと厳しいんじゃないか?」
「そっか。それでシガンさまとガールちゃんだけしか召喚していないんだね」
「それに召喚についてはアデルの耳に入らないよにしてくれよ。あの危険な本の存在を知られたくない」
「あはは。アデルなら本のために平気でシガンさまのお部屋にも入りそうだもね」
「まったくだ。……おっと、あれが集落か。結構デカいな」
「本当だ。かなりのゴブリンが住んでいるみたいだよ?」
「よし、冒険者ギルドに報告に戻ろう」
「うん!」
冒険者ギルドにゴブリンの集落の地図を渡すと、アティに誘われて孤児院に寄っていくことにした。
「最近はね、なんか仕事がたくさんあって人手が足りないみたい。前より孤児院の子供の人数が減ったんだって」
「いいことじゃないか。景気がいい話だ」
「うーんそうなの? でも孤児が少ないのは確かにいいことだよね」
「そういえばアティはなんで孤児になったんだ?」
「私? なんてことはないよ。親が商売に失敗して夜逃げしたんだけど、置いていかれちゃったの。その後はしばらく浮浪児をやっていたんだけど、孤児院の院長先生に拾ってもらえたんだ」
「へえ。酷いことをする親もいるもんだ」
「きっとお金がなくて育てられないと思ったんじゃない、よく分からないけど……。でもわたし今は幸せだよ? こうやって最高の男の横にいられるんだから」
そう言ってアティはシガンの頬にキスをした。




