95.マーガレット(2)
木剣の剣閃が綺麗な弧を描く。
マーガレットの剣筋は真っ直ぐ、あくまで騎士としての剣だった。
一方のシガンは大学の4年間で居合いの基礎を学んだものの、実戦剣術に昇華したのは我流である。
最短を詰めるような剣筋に鬼との戦いの経験があった。
「ふン。なかなかの腕前じゃないか。これなら互角稽古でいいね」
「まだ本気じゃないってのか。恐ろしいな。じゃあこっちもギアを上げていくか」
シガンは闘気法を回し、マーガレットも闘気法を使い始めた。
「ほほう。まさか闘気法とはね。スカジャンのシガン、あんたがここまでやるとは思ってもみなかったよ」
「こっちのセリフだババア。何が現役を引退しただ。そこらの冒険者なぞよりよほど強いじゃねえか」
「じゃあ更に本気を出しても大丈夫かい?」
「ああ、もちろんだ――」
「「〈フィジカルブースト〉!!」」
剣閃の連打はやがて両者の木剣の限界を迎える。
最初に剣が壊れたのは、マーガレットの方だった。
「ふう……やっぱり若いのには勝てないね。現役を引退して正解だったようだよ」
「ここまで動けて引退するのはもったいないな。薬師をやっているって聞いたが、なぜ剣を教えない?」
「こんな婆から教わりたい若者がいるかね?」
「俺なら教わりたいね。基礎はともかく我流なんだ、この剣術は」
「剣なんぞ実戦に即して鍛えれば誰でもいずれ我流になるもんさ。気にすることはないよ」
「例えば冒険者ギルドの訓練場で剣を教えないか? 俺なら毎日でも通いたいくらいだ」
「お世辞はやめとくれ。まあアンタが私の家に来て素振りを一緒にするくらいならいいがね」
「本当か! 朝は日の出からか? もちろん来させてもらうよ」
「変わり者だねえ……まあいい。お茶でも飲んでいきな」
シガンとガールはマーガレットのお茶につきあい、日暮れ前に辞した。




