93.薬草採集(2)
シガンは山に入ると、さっそく棒倒しをするのだった。
「《棒が倒れた方向に薬草の群生地がある》」
パタリ。
そうして進めば、当然、薬草がたくさん生えた場所に行き着く。
さて薬草を真面目に採取するか?
否、ここも言霊で片付ける。
シガンは面倒臭いことが嫌いなのだ。
「《俺はポーションの原料になる薬草を採取した》」
バサリ。
薬草の葉がむしり取られ、大量にあった薬草が目減りした。
ウェストポーチのマジックバッグを覗くと、しっかり薬草が入っている。
シガンは結果に満足すると、再び棒倒しを始めた。
「《棒が倒れた方向に別の薬草の群生地がある》」
パタリ。
なお道中の戦闘はゴブリンや三つ目狼程度しか現れないため、ガールが瞬殺していく。
シガンはまたゴブリンが集落を作っているかも知れないな、と思った。
薬草の群生地に着くと先程と同様に言霊で採取をし、みたび棒倒しをするのであった。
「《棒が倒れた方向に未採取の薬草の群生地がある》」
パタリ。
そうして幾つもの薬草の群生地を周り採取をしていくと、途中でひとりの老婆に出会った。
腰がシャンと伸びた元気そうな老婆で、腰には剣まで差していた。
「おい婆さん、こんな危険な山で一体、何をしているんだ?」
「んん? そのトンチキな格好は噂のスカジャンのシガンかい。この婆のことは気にする必要はないよ。薬草を摘みに来ただけだからね」
「冒険者だったのか? 俺たちも薬草を集めているんだ」
「へえ。なら婆が出張る必要もなかったかもしれないねえ……でもポーションが不足しているのを見過ごすわけにはいかないんだよ。とりあえずここの薬草の採取を手伝っておくれ」
「ああ。《俺はポーションの原料になる薬草を採取した》」
「…………なんだい、今のは?」
「ん? 薬草を採取したんだが?」
「馬鹿をお言いでないよ。一瞬で薬草が消えたじゃないか。何をしたんだい」
「俺が薬草採取したようには見えなかった? ……婆さん、一体何者だ?」
「それはこっちのセリフさ。薬草はどうしたんだい。ことと次第によっちゃただじゃ済まないよ」
「安心しろ。ちゃんと採取してマジックバッグに入っているから」
「ふうん? それがスカジャンのシガンのチカラってわけかい……珍しい魔術だね。古代文明のスクリプトを使わない魔術だろう」
「なあ、いい加減に正体を明かしてくれよ。婆さんは何者なんだ?」
「おっと、婆としたことが名乗るのを忘れていたね。私の名はマーガレット。一昔前は剣で飯を食っていたが、引退して今は薬師をやっとるよ」
「引退したなら大人しくしているか、現役の冒険者に頼め。山にはまたゴブリンがちらほら出るようになって危険だろう」
「はン? ゴブリンごとき、いくら引退したからって相手にならないよ。まあ薬草採取はスカジャンのシガンに任せておけば大丈夫そうだね、後は頼んだよ」
マーガレットはそう言って立ち去った。
「なんなんだ、あの婆さん。足運びがしっかりしているにも程がある。引退したんじゃないのか。その辺の現役冒険者よりやるぞ」
「同意ですマスター。どうやら只者ではないようですね」
その後も薬草の群生地を周り、大量のポーションの原料を集めたシガンだった。




