09.宿
シガンはベルと一緒に宿に来た。
「部屋を借りたい。ベル、そっちは何日残っている?」
「あ、ちょうど今日までですので、今晩は泊まれます」
「そうか。じゃあ俺だけだな。2泊で銀貨1枚でいいんだっけか」
「はい、確かに。部屋はこの鍵に書かれている数字の部屋ですよ」宿のおかみが鍵を出しながら言った。
「ベル、食事はどうする?」
「ここの宿の食事、美味しいですよ。銅貨10枚でお腹一杯たべられます」
「そうか。じゃあ食事はここにしよう。とはいえ俺は銀貨しか持っていないぞ」
「店の方で崩しましょうか?」宿の女将が言った。
「おお、助かる」
銀貨1枚は銅貨100枚になって返ってきた。
シガンはジャラジャラした銅貨100枚のうち50枚をベルにおしつけた。
「こんなに小銭を持てない。ベル、半分やる」
「え? いいんですか?」
「いいんだ。今晩の食事代にしよう。それに俺たち、相棒じゃねえか。財布は一緒でも構わねえだろ?」
「え……はい」
またもベルは硬直した。
財布が一緒なのは夫婦の話だ。
それと知らないシガンは鍵をチャラチャラ鳴らしながら、宿の部屋を探して歩く。
「罪な男だねえ」宿の女将はシガンの背中の竜虎を眺めながら言った。
食事は大満足だった。
パンにシチュー、サラダに魚料理。
これで銅貨10枚、つまりゴブリン10分の1ということは、シガンならかなり稼げる。
生活の目処が立ったので、シガンはようやく一息つけたと安心した。
「ベル。明日からはガンガン、ゴブリンを狩ろう。狼でもいいぜ」
「シガン様、狼は手強いですよ?」
「三日三晩、狼を殺しまくったから知っているよ。そういえば狼にも魔石はあるのか?」
「いえ。魔石があるのは魔族だけです。狼は毛皮ですね」
「ふうん。狼の肉は?」
「マズくて誰も食べませんよ」
「なるほど」
確かに宿の料理を食べた後で、狼のあの肉を食べたいとは思わない。
シガンはその日は早めに休み、翌日に備えた。