89.グリフォンの鞍
一通り乗りこなしたシガンが降りると、グリフォンはひと鳴きして飛び去っていった。
「楽しかったぞ」
「……」アティは恨めしそうにシガンを見た。
「しかしグリフォン用の鞍か。伯爵に相談してみるかな」
「それしかないですよね」
というわけで、シガンはアドリアンロット伯爵のもとへ向かうことにした。
「こんにちは、お義父さん」
「おお、スカジャンのシガンか。そなたの用意したサンプルの真珠は王都で大受けしたぞ。1年後が楽しみだ」
「それは良かったです。それで今日はご相談がありましてやって参りました」
「私に相談とな? どんな相談だ」
「グリフォン用の鞍が欲しいんです」
「なんだと!? まさか飼いならしたのか!?」
「まさか。ダンジョンの第十階層の宝物で、グリフォンを呼べるようにはなったんですが、そのままだと放り出されることが分かりまして」
「誰か怪我人が出たか?」
「いいえ。みんな無事ですよ。で、ベルが言うには王都にはグリフォンナイトなんてのがいるらしいじゃないですか。そこから鞍を融通していただけないかと」
「ううむ。私も伝手がないな。いや待てよ? それならばザールムント子爵に頼んでみてはどうだ。確かザールムントの先代はそのグリフォンナイトだったはずだ」
「そうなんですか? では手紙を送ってみます。いやベルに書かせた方が先方も喜ぶかな?」
「ふふ、そうさせるがいい。あーごほん。ところでシガンよ。聞くまいと思っていたが、アデルはどんな様子だ?」
「日がな本を読んでいますよ」
「やはりか……あれは昔から本の虫でな」
「ですがその分だけ知識もあるし、聡明です。俺にはもったいないくらいのいい女ですよ」
「そう言ってくれると父親としては立つ瀬があるのだが」
「何か?」
「いや……そろそろ孫の顔がみたいなと」
「まだ結婚して一年も経ってませんよ?」
「うむ。だが本ばかり読んでいて、そなたの相手をしないのでは困る」
「あ、そっちのことなら大丈夫です。アデルの父親に言うことじゃないかもしれませんが、ちゃんとやることはやっています。アデルにしても貴族の義務という奴を理解しているんじゃないですか?」
「そうか! ならば心配はない。いや不躾なことを聞いた。そうだ、元気薬と強壮剤はまだあるか? また私から送らせてもらおう」
「ああ、それはありがたいです。妻ふたり以外にも恋人がいるもので」
「うむ」
用事を済ませたシガンは、屋敷に帰った。




