88.グリフォンの呼笛
「あっけなかったな……」
「ボス部屋での基本戦術でしたね。私も失念していましたが……」ベルがうなだれる。
シガンたちはバジリスクを素通りすると、扉の奥の宝箱を開けた。
前回のボス部屋の宝箱は魔導書だったが、今回は……ホイッスルであった。
「笛か?」
「笛ですね」ガールが同意した。
「え、これが笛なの?」
ベルたちはいまいち反応が悪い。
楽器に関しても文明が後退した今、ホイッスルのような形状の笛はないのだと分かる。
「ターニア、鑑定できるか」
「見てみるわ……あらこれは」
「どういうお宝だ?」
「グリフォンを呼び寄せる笛ですって。これで呼び出されたグリフォンは友好的な反応を返すみたいね」
「グリフォン? 確か討伐依頼にあった奴か」
「強力な魔物です。ですが飼い馴らせば背中に乗って戦うことができるとか。王都にはグリフォンナイトがいるそうですよ」ベルが言った。
「つまりグリフォンを呼んで移動するための笛ってことか?」
「そのようですね。凄い宝です……」ターニアが陶然として言った。
「地上に出たら試してみようか」
「はいはい! わたし乗りたい!」アティが手を上げた。
「みんなで順番だな」
地上に戻ったシガンたちは、翌日さっそくグリフォンの呼笛を試すことにした。
街中に魔物を呼び寄せるわけにはいかないので、山に入っての実験だ。
ピーーーー!!!
甲高い音がなると、バサバサとグリフォンが飛んできた。
「ほう、こいつがグリフォンか。格好いいな」
「はいはい! わたしが乗る!」
「よし、アティが一番だ」
シガンはアティを持ち上げてグリフォンの背中に乗せた。
「よし、グリフォン、行けぇ!」
「ぐるぅ」
バサバサと羽根を動かして凄いスピードで飛び出した。
するとアティはポーンと放り出されて――
「《アティは無事に着陸した》」
――アティはスタっと地面に着地した。
「…………っ」
アティは無言でボロボロと涙をこぼしながら、ガタガタと震えてしまった。
「しまったな。もしかして鞍が必要なんじゃないのか?」
「そうかもしれませんが、グリフォン用の鞍はどうやって手に入れれば?」ベルが首を傾げる。
グリフォンはグルリと空を飛ぶと、また戻ってきた。
「よし、今度は俺が挑戦しよう」
「危険ですシガン様!」
「そうよシガン。無理に乗ることないじゃない」
「マスター、勝算はあるのですか?」
「もちろんだ。要は振り落とされなければいいんだろ」
シガンはグリフォンに乗ると、影で自分の足とグリフォンとを結んだ。
「よし行け、グリフォン!」
「ぐるぅ」
またしてもとんでもないスピードで飛び出したグリフォンだったが、シガンはなんとかたてがみを掴んで乗りこなしていた。
「ヒュウ! こいつは気持ちいい!」
「ぐるぅ!」
息ピッタリのシガンたちを見て、ベルたちはグリフォンに乗るのを諦めた。




