86.バジリスク(1)
第七階層、第八階層、第九階層まで、全て自然フィールドだった。
この間、何度もダンジョンに泊まってはマッピングを繰り返し、遂に第十階層のマッピングに挑むことになった。
「シガン様、第五階層にボス部屋があったように、第十階層にもボス部屋があると思います。一定の間隔でボス部屋があるはずなので」
「なるほど。ならこれまでより厳しい戦いになりそうだな」
「ですが第六階層以降、苦戦はしていませんよね?」
「……そうなんだよなぁ」
むしろ敵は自然フィールドだった。
第六階層は草原と森だったが、第七階層は密林だった。
第八階層は山岳地帯で、第九階層は渓流である。
密林はヒルがうっとうしいし不快な湿度が女性陣に大不評であった。
山岳地帯はいきなり寒くなったため、一旦戻って防寒着を用意する羽目になった。
第九階層はすべりやすい川沿いでの戦いが続き、川の中からリザードマンが奇襲を仕掛けてくる厄介さだった。
リザードマン自体はオーガより数段劣るのだが、それが川の中から奇襲してくるとなると、かなり面倒なことになる。
アティが感知力を強化する〈センスブースト〉を習得しているからよかったものの、なければ誰かが怪我を負っていたかも知れない。
さて第十階層にシガンたちは降りてきた。
そこは自然の洞窟になっており、久々にマッピングのし甲斐のありそうな自然フィールドであった。
凶悪化している罠などもあるが、おおむね第五階層までのダンジョンと同じ感覚で移動できた。
さてそうなると出現する魔物が問題になるのだが、……そう大した強敵は現れなかった。
アイアンゴーレムは鈍重なだけのただの鉄の塊であるし、剣を扱うオーガフェンサーはただ武器をもっただけのオーガにすぎない。
ジャイアントスパイダーは素早い動きと粘糸を吐き出す能力を持っていたが、シガンたちの相手ではなかった。
もっとも蜘蛛の巣は邪魔だったし、前衛の回避した粘糸を後衛が浴びるなどの厄介さはあったが。
マッピングは一日程度で終わった。
問題は両開きの扉の先、ボス部屋だ。
ここまでシガンたちを苦しめた魔物はほとんどいない。
だがボスがそうだとまでは、楽観視していなかった。
「よしボス部屋の扉を開けるぞ」
「「「「はい!」」」」
両開きの扉がゆっくりと開いていく。
そこに鎮座していたのは、八本足の巨大なトカゲだった。
「バジリスク!? シガン様、早く扉を閉めて!!」
「ん? ああ……」
ベルの剣幕に驚いたが、バジリスクがシガンを睨めつけると、身体が硬直したように動かしづらくなった。
「シガン様、バジリスクは石化の魔眼を持っています。早く扉の影に……シガン様!?」
シガンは影の手で扉を強引に閉じると、ギギギ、と後ろを向いた。
「せ、石化だ、と?」
「ターニア!」ベルが叫ぶ。
「〈キュア・ストーン〉! 大丈夫、シガン?!」
「う~、ああ……。楽になった。ありがとうターニア」
石化を解除する手段があったのは幸運だった。
ターニアが高位の神聖魔術を習得していなければ、石化したまま地上まで歩かなければならないのだ。
第十階層のボスは、恐ろしい相手だった。




