84.〈フィジカルブースト〉
第六階層をくまなく探索することになったシガンたちは、まず階段の位置を確認。
次に宝箱をシガンの棒倒しで探し出し、すべて回収した。
魔法の品やら宝石やら金貨やら、統一感はないがどれも役立つものだったり、単純に懐を温めるものだった。
さて最後に四方の壁を探すシガンたち。
結局、いつものマッピングと同じくらい面倒であった。
第六階層から帰還すると、さっそくシガンの魔術習得をベルがサポートすることになった。
必要なのはスクリプトを理解することであるが、そもそもシガンはスクリプトの読み方から習わなければならない。
アティもそうだったが、魔術師になるためにはスクリプトという難解な読み物をなんとかしなければならないのだ。
「シガンさま、わたしにもできたんだから頑張って!」
「ああ、アティ。頑張ってみるよ」
「アティは感知系の魔術も勉強しましょうね?」ベルがアティにスクリプトの書かれた紙の束を渡した。
さあ、魔術の習得だ。
スクリプトとは魔術の構造を記述したもので、これを丸暗記することで魔術を発動させることができるようになるのである。
スクリプトはプログラミング言語のように単語や構文に意味があって、シガンは早々に諦めたくなった。
いや、諦めても良いのだ。
今のシガンは完全な地球人ではない。
つまり言霊が有効なのである。
「《俺は〈フィジカルブースト〉のスクリプトを完璧に暗記した》」
すると、シガンは自分が〈フィジカルブースト〉を発動できるようになっていることに気づいた。
「〈フィジカルブースト〉! ……おお、これは確かに身体能力が強化されたぞ」
「……シガン様。ズルい」
「シガンさま、ズルい!!」
「魔術って便利だな。また何か俺向きなのがあれば教えてくれ。じゃあな!」
「ああ、シガンさま待って!」
「アティ? あなたはこっちね」スクリプトの紙束をアティに押し付けるベル。
かくしてシガンは魔術を習得したのだった。




