08.冒険者ギルド(2)
まだ日は高い。
仕事をしなければ無一文だから、シガンは適当に依頼ボードから依頼をみつくろうことにした。
とはいえ素人のシガンに依頼の良し悪しが分かるはずもない。
手っ取り早く金になる簡単な仕事を、とベルに頼んだ。
「ええと、庭掃除とかですか?」
「できれば刀を使いたい。俺はそんな面倒なことはやりたくないぞ」
「じゃあ……ゴブリン狩りですか? 失敗したばかりなんですけど」
「それでいいぞ」
「あ、そういえば気が動転していて気が付きませんでした。あのときのゴブリンから魔石を取れば、依頼は成功していたのに……」
「なんだその魔石とやらは」
「え? 付与魔術の媒体ですよ。お金になるんです。あそこのゴブリン、十体はいたから依頼は失敗せずに成功にできていたんですけど……ああ失敗したなあ」
……ふうん。
シガンはそれならと言霊を使ってみることにした。
「《あのときの魔石は俺が回収しておいたぞ。お前はそれを見ていた》」
「え? あれ……そういえば私、ぼんやりしている間にシガンさんが魔石を回収していたような……」
シガンは唐突にスカジャンのポケットに十個の魔石が現れたので驚いた。
「そうだった。俺も忘れてたよ。今からカウンターに行って依頼は成功したことにしてもらおう」
「そうですね。ありがとうございますシガン様」
カウンターに魔石を持っていくと、ゴブリン退治の依頼自体は成功という扱いになった。
ついでにベルとシガンの実績扱いになり、魔石は銀貨10枚になって返ってきた。
「ベル、お前の泊まっている宿って一泊いくらだ?」
「銀貨1枚で2泊できますけど?」
「じゃあ十分だな。今日はもう休もう」
「え、は、はい!? わ、私初めてなので、その、色々と準備が……」
「??」
シガンはベルが何を慌てているのか理解できなかった。
この少女は、助けたお礼に一緒の部屋に泊まる、とシガンが発言したと思い込んだのである。
「とにかく宿だ。食事もしたいな……三日ほど、まともに飯をくっていない」
「ええと、はい。ご案内します」
「おいおい、ベルちゃんをお持ち帰りしようだなんてこの冒険者ギルドの男どもが黙っちゃいねえぜ!!」
「そうだ、冒険者ギルドのアイドル、ベルちゃんを返せ!!」
「どこのどいつか知らんが、ふてえ野郎だ。しばきたおしてやらあ!!」
冒険者ギルド内がにわかに騒がしくなってきた。
シガンはイラっときて、つい言霊を使った。
「《全員、黙れ》」
シンとした冒険者ギルド内。
静かな言葉ひとつで制圧された男たちは、顔を見合わせて驚いていた。
「俺は別にこのベルに何か良からぬことをしようってわけじゃねえ。宿の部屋に連れ込むつもりもない」
その言葉に、冒険者ギルド内の男どもは安堵し、
「ならいいんだ」
「なあんだ、ベルちゃんに手を出す気はないか」
「しかし一言で俺らを鎮めるたあ、すげえ使い手かもしれんな」
「腕前は確かか……」
シガンの評価が上がったが、ベルはひっそりと落ち込んでいたという。