77.ハルピュイア(2)
山に入ると、早速ハルピュイアと遭遇した。
ハルピュイアは女性の頭部と身体に両腕が翼、両足が鉤爪になった魔族である。
空を飛び、歌で人間を眠らせてから食うという危険な魔物だ。
もっとも突然遭遇したのではなく、事前にハルピュイアと遭遇することが分かっていたため対策を予め立てることは容易だ。
ひとつは耳栓をすること。
これは仲間同士の意思疎通を難しくするため、他に手段がないとき用の対策だ。
ふたつ目の対策は風属性の魔術〈サイレント〉を使うことだ。
この魔術をかけられるとしばらくの間、物音を発することができなくなる。
本来は隠密用の魔術だが、このような呪歌への対策としても有効である。
ベルはこの魔術の使い手だが、もっと簡単な三番目の対策をとることができたので今回、この方法は使わない。
そしてみっつ目は、ガールの発する超音波により呪歌を無効化する方法だ。
魔力を込めた超音波は人間の可聴周波数を越えており、シガンたちには無害だ。
しかし耳の良いハルピュイアにとっては呪歌をかきけしたうえで不快な音を聞かされるという二重苦を迫ることになる。
超音波を発すること自体は簡単らしいので、今回はこの方法で対策することになった。
……というわけで、アティの弓――これは火矢を放つ魔法の弓ではなく普通の強弓――で撃ち落としすだけの作業である。
「《ハルピュイアの集落は棒の倒れた方向にある》」
シガンの棒倒しで集落の方角を確かめ、茂みを突破していく。
空を飛ぶハルピュイアらしく、獣道などを無視した位置に集落を築いているらしい。
おかげで道なき道を行く羽目になった。
なるほどなかなか集落が見つからないのはこのせいだと、シガンたちは判断した。
ハルピュイアの集落が見つかったのは1時間ほどまっすぐに歩いたところであった。
木々にぶら下がるハルピュイアの大群。
かなりの数が集落というか、巣に集結していた。
というか、その巣にうっかりシガンたちは足を踏み入れていたことに、襲われるまで気づけなかった。
ひとつはアティがオークの集落のように家屋を建てていると思い込んでいたこと。
ふたつには木々の上に潜むハルピュイアを単純に見つけづらかったこと。
飛んで襲撃してくるハルピュイアを見つけるのは容易だったが、木々の枝にぶら下がるようにして潜むハルピュイアたちの生態をアティが知らなかったことが原因だった。
強襲してくるハルピュイアをガールの単分子シートが切り裂いていく。
同時に大合唱が行われる呪歌をガールの超音波でなんとか打ち消した。
「マスター、超音波の出力を最大にすると、ガールは戦うことにリソースを割けません」
「分かった。みんな、ガールが呪歌を無効化しているうちに数を減らしていくぞ!!」
「「「はい!!」」」
ターニアがまず全員に〈ブレス〉をかけた。
アティは自身に〈フィジカルブースト〉をかけて、素早く強弓を連射する。
ベルは〈ウォーター・マスタリー〉を自分にかけてから、広範囲に吹雪を起こす〈ブリザード〉で木々ごと凍らせていく。
シガンは自分の影を槍状にして、空中から飛来してくるハルピュイアを迎撃していた。
影の槍は一度に2~3本しか出せないが、素早く出し入れすることで十分に迎撃に活用できた。
巣のハルピュイアが合唱では分が悪いと悟ったのか、一斉に木々から飛び立った。
その様子はアドリアンロットからでも見えたらしく、悪夢のような光景として一時期、話題になったという。




