75.暗黒魔術(3)
幸いなことにシガンの身体から立ち上るようにしていた黒い霧状のもやは消え、傍目からは完全な人間にしかみえないようになっていた。
しかしシガンは自分の影を自在に操る能力を得たし、魔力も新たに獲得している。
ガールが見たら何というだろうか、それだけがシガンの心配事だった。
鉄塊の前に陣取る。
まずは体内の魔力のコントロールだ。
シガンは瞑目して己の体内を巡るチカラの流れに集中する。
巡る魔力の回転が高まるほどにシガンは息苦しくなっていくような気がして、必死に呼吸をした。
酸素が足りない。
いや、酸素じゃなくて魔力が足りないのか?
今なら空気中の魔力を呼吸で吸い込むことができる。
シガンは呼吸の仕方を変えて、魔力を体内で回しだした。
そして呼吸と回転を安定させると、居合い一閃。
シガンが目を開くと、鉄がバターのように斬り裂かれていた。
斬鉄、成功である。
しかしすぐに呼吸と体内魔力の回転が乱れた。
「これを実戦で使おうものなら、斬鉄の前にボコボコに殴られているな……もっと素早く繰り出せるようにしなければ」
シガンは呼吸と魔力の回転を一息で行えるように、何度も何度も素振りをした。
昼過ぎにベルたちがダンジョンから戻ってきた。
「おかえり。誰も怪我はしていないだろうな?」
「はい、シガン様。ガールちゃんが全部やっつけてくれましたよ。ミノタウロスの角と魔石まであります」
「さすがはガールだ」
「……マスター、その、それは一体?」
「気づいたか、さすがはガール。でも安心していい。俺は強くなるために必要なことをしただけだ」
「マスターがそれでよろしいなら、ガールはなにも言いません」
「いいかガール。このことは誰にも言うな」
「了解しました」
ベルとアティとターニアはかわされている会話が相変わらず意味不明だ、とのんきにふたりの様子を見ていた。




