74.暗黒魔術(2)
夜中、シガンは魔法陣を描いて中央に立った。
「出ろ。シャドウストーカー」
にゅるり、とシガンの影から人型の影が現れた。
シャドウストーカーだ。
「これからお前と血の契約を結び、合一の魔術を使う。どうか俺の一部となってくれ」
「――――」
シャドウストーカーは恭しく頭を垂れると、シガンに従う意志を見せた。
「ありがとうよ。……合一の魔術」
シガンは自分の親指を短剣に押し付けて、血を魔法陣に滴らせた。
するとシャドウストーカーがシガンに重なるようにべったりと張り付き、……シガンは苦しみだす。
「ぐう、ああ……」
合一の魔術とは、魔物を身体の内に取り込む邪法である。
ただの人間であるシガンが物理法則の壁を乗り越えるためには、この世界の魔法を取り込むしか無い。
「……はあ、はあ、はあ」
シガンとシャドウストーカーがひとつになった。
シガンの身体からはモヤのような黒い霧が立ち上り、影を自在に操る能力を得た。
「これじゃ斬鉄は無理か? しかし便利にはなったな」
その場で飛び跳ねると、明らかに身体能力が向上したことを実感できた。
魔力というものもシガンの内側に内包されていることが理解できる。
「さあ、斬鉄の修行の再開だな。この魔力を使えば、きっと俺にも……」
シガンは人知れず魔を取り込み、人間を辞めた。




