73.暗黒魔術(1)
翌日、ベルたちは魔石を取りにシガン抜きで第五階層へ向かった。
前衛はガールが務める。
シガンはといえば、相変わらず斬鉄の技の習得のために修行をしていた。
壊れない刀があればこそ、可能な修行だ。
鉄塊の周辺には細かい破片が散らばっていたが、これは刀をぶつけて砕いた破片にすぎない。
破砕ではなく、理想は切断することだ。
言霊をつかって目の前の鉄塊を柔らかい木材に変えることは可能だが、そのような裏技は最終手段である。
というかシガンの美学からすれば、反則技なので自力で斬鉄を成し遂げたいと思っていた。
しかし心のどこかで、刀で鉄を斬るならこの世界の人間でなければ無理なのではないかと、シガンは考えていた。
魔術の使えないシガンには、魔力というものが分からなかったからである。
きっとガールの言っていた斬鉄の技とは、魔術のように魔力を使った技なのだと、薄々気づいていた。
背後で●がため息まじりに言った。
「そこまで分かっていて、無駄な努力を続けるのは何故じゃ」
「仕方ねえだろ。ボスのアイアンゴーレムを倒せなければ、第六階層のマッピングは難しい」
「確かにのう。ボスも嫌がらせばかりで置いてあるわけではないから、その可能性は高い……しかしシガン、地球人であるお前には限界が存在する。物理法則というな」
「それを超えるには、神か魔か。なんらかの力を借りなければならない。分かってはいるんだが……あれを使うしかないのか?」
人間の皮で装丁された『暗黒魔術の実践』という本だ。
危険な魔術が多いので召喚以外の使用を●に咎められていた。
「そうじゃな。もし人間であることに拘りがなければ、あれを使うとよい。●はお前が人間を止めるのを、悲しく思うがな」
●は言いたいことを言って消えた。
「……とすると、あれか。まあシャドウストーカーならば便利そうだし、いいか」
シガンは納刀すると、自室にある『暗黒魔術の実践』を読みに戻った。




