71.魔導書
第五階層でのボス戦を経験して、シガンは第六階層のマッピングは当面、自粛することにした。
まずは自力で鉄の塊を斬る――斬鉄の技の習得が先決だと思ったからだ。
シガンはあくまでマヨイガで手に入れた刀を使うつもりでいた。
庭には素振りなどをする訓練スペースがあるのだが、そこに鉄塊を置いて試し斬りする。
刃こぼれなどは気にせずとも、常に最高の状態を保つマヨイガ製の刀だ。
ひと思いに行った。
ガキィン!
刃は弾かれ、斬鉄どころか尻もちをついた。
しかしシガンは諦めない。
マヨイガで過ごした5年間が思い起こされる。
毎日が修行の日々だった、あの頃。
目標が出来たシガンは、何度も何度も、鉄を削るように刀を振るった。
一方、後衛たちはダンジョンで入手した魔導書の研究に余念がない。
アティも戦力不足を痛感しており、魔術の初歩をベルに手ほどきしてもらっている最中だ。
魔導書にはこれまでなかったスクリプトによる目新しい魔術が載っており、威力次第ではアイアンゴーレムにも有効な魔術すら載っていた。
アティはまず身体能力を強化する〈フィジカルブースト〉から習うことにした。
今の弓は魔法の弓だが、筋力が増せばより楽に弓を引けるようになるし、単純に強い弓を持つ選択肢もとれる。
素早い動きが可能になることから、魔物の魔術を回避するのにも役立つと思い、練習に励んでいた。
ベルはアイアンゴーレムに通用する魔術を見つけて、狂喜乱舞していた。
その魔術とは〈ウェザリング・メタル〉、即ち金属風化の魔術である。
風属性であり、ベルは問題なく習得が可能だ。
他には単純に威力の高い魔術があった。
土属性の〈ストーン・ブラスト〉の上位互換である〈サンド・ブラスト〉は、吹き付けられた砂が相手の視界を塞ぐなどの二次効果も期待できる優秀な魔術だ。
水属性は、より攻撃的な属性である氷属性の魔術を使うことのできる〈ウォーター・マスタリー〉の魔術が優秀だ。
これによりベルは中位属性である氷属性の魔術の習得が可能になった。
風属性は、〈ウィンド・カッター〉の上位互換である〈ウィンド・セイバー〉の魔術を見つけた。
いずれにせよベルの戦力は飛躍的に向上したのであった。
ターニアも魔導書から新たな神聖魔術を見出していた。
退魔の魔術〈ターン・アンデッド〉の上位互換である〈ピュリファイ・ソウル〉。
神々からの祝福を与え、一時的に身体・精神能力を向上させる〈ブレス〉。
最もターニアが感銘を受けたのは神々に質問を問い合わせる〈オラクル〉の魔術だ。
これはシガンの棒倒しのように向かう先を知ることもできるし、もっと漠然とした質問や神々の視座から物事を見たときの回答が得られるというものだった。




