70.アデル(1)
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ただいまアデル」
ただいまのキスを済ませると、アデルはシガンにしなだれかかって言った。
「旦那様ぁ、私にもダンジョンで発見された魔導書を読ませてくださいまし」
「は? アデルは魔導書まで読むのか」
「もちろんですわ。むしろなぜ乱読趣味の私が読まないとお思いで?」
「それなら魔術は何が使えるんだ?」
「付与くらいでしょうかね。他には闇が使えましたが、外聞が悪いためそちらの練習は禁じられておりました」
「付与魔術が使えたのか……知らなかったぞ」
「うふふ。私も旦那様のことをよく知らないのでおあいこですね」
「そういう問題じゃないだろ。付与魔術が使えるなら、俺達の冒険の手助けができるじゃないか」
「まあ。私の読書時間を奪う気ですか? まあ愛しい旦那様のためですから、手伝うのは吝かではありません。付与一回に本一冊でいかがでしょう」
「本の値段を考えると暴利だな。今まで購入してやった本の分くらいはサービスしてくれよ」
「もう旦那様のケチ。ではしばらくは無償ご奉仕ですね」
「よろしく頼む。魔石が必要なんだったか?」
「はい。付与魔術には魔石はかかせません。質が良ければそれだけ強力な付与が可能になりますが、敢えて小さな魔術を小さな魔石で付与するといったこともありますので、……できれば色々と選択肢があると嬉しいですわ」
「俺は付与魔術のことはよく分からない。ベルたちと相談してもらうことになると思うが……そういえばアデルはベルたちと、そのどうだ。上手くやれているのか?」
「さあ? 私は部屋に引きこもって本を読んでばかりいますから。冒険の話題にも入れませんし」
「まあ付与魔術という話題ができるならそれでいいのか……?」
「旦那様は妻や恋人のことで悩む必要はありませんよ。当人たちの間で解決するので、下手に手を出すと誰かを贔屓することになったりして揉め事の種になりそうです」
「なるほどな。……アデルは、本以外に目を向けている間はいい女なんだよなあ」
「まるで読書中はいい女じゃないような言い方ですわね」
「たまに食事にも来ない時があるだろ。健康に悪いからやめてくれよ」
「大きなお世話ですわ。それよりダンジョンで手に入れた本のこと、ベルさんたちに伝えておいてくださいましね、旦那様」
言いたいことだけ言って、アデルは自室に去っていった。
不仲ではないが、いまいち掴みどころがないな、と思うシガンだった。




