表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スカジャンのシガン  作者: イ尹口欠
冒険者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/185

62.結婚式(2)

 一方、見知らぬ男と結婚させられる予定のアドリアンロット伯爵の次女アデルは、心ここにあらずといった様子で虚空を眺めていた。


「お嬢様、こんどはこちらを向いてください。化粧ができませぬ」


 大勢のメイドに囲まれて化粧やら髪結やらドレスの着付けやら、まるできせかえ人形のようにされていた。


「お嬢様、顔も知らない人と結婚だなんて。しかも相手は貴族ではなく冒険者……どんな乱暴者か分かったものではありません」


 その様子をどう思ったのかアデル付きのメイドが、呟いた。


 それが耳に届いているのかいないのか。

 アデルの視線は虚空に縫い付けられたままだった。



 結婚式が始まった。

 式場は神殿を貸し切って行われる。

 招待客以外にも一般観覧、つまり野次馬が可能なように神殿の表は開放されていた。


 新郎であるシガンはアティとターニア、両手に花の状態で神殿に入場して、観客を湧かせた。

 これから二人の妻を娶るのに、二人の恋人を見せつけた形である。


 そして新婦入場となった。


 ヴァージンロードを歩くのはアドリアンロット伯爵と白いヴェールで顔を隠したウェディングドレス姿のアデル。

 そしてザールムント子爵と、同じように白いヴェールを被りウェディングドレスを纏ったベル。


 ふたりが新郎のシガンの両側にたどり着くと、ふたりは中央を向いた。


 神官が長い祝詞を読み上げる。


 野次馬もシンと静まり返って、様子を見守っている。


 そして指輪の交換となった。

 今日のために用意されたよっつの結婚指輪は、それぞれ意匠が異なる。


 まずアデル・アドリアンロットとの交換だ。

 シガンが彼女に向けて差し出したのは真っ赤な巨大ルビーの輝くプラチナリングの指輪で、防護の魔法が付与された魔法の指輪だ。

 一方、アデルがシガンに向けて差し出した指輪はシンプルなプラチナリングである。

 普段から武器を扱うシガンでも外す必要のないように、邪魔にならないようにした結果である。


 そして次にベルベット・ザールムントとの交換である。

 シガンが彼女に向けて差し出したのは真っ青なサファイアがついたプラチナリングの指輪で、これは魔術の焦点具としても使える魔法の品であった。

 一方、ベルが用意した指輪もアデルのものと一見するとおなじものに見えた。

 しかしシガンが二つ目の指輪をすると、僅かに色合いがことなるのが見て取れた。

 プラチナの純度の差で、色を変えているのである。


 色違いの指輪は家格の差を表す意図があった。

 ベルの贈った指輪の方がプラチナの純度が低いのだ。


 さあ、そして野次馬たちが待ち望んだ誓いのキスの時間である。


 シガンはアデルのヴェールをそっと持ち上げた。

 初めて見る顔だが、化粧を抜きにしても美少女だった。

 ただし目の下にクマがある。

 もしかしたら顔も知らない相手と政略結婚することになったために不安で眠れなかったのかも知れない。


 シガンはそっと頬に手を添えて、優しく唇を重ねた。


 そしてハンカチでさりげなく口を拭うと、ベルとのキスである。


 ベルのヴェールを持ち上げると、いつもより化粧で美しくなったベルの顔があった。

 目は潤み、頬は朱く染まっている。

 シガンはアデルにしたようにそっと唇を重ねたが、ベルの手が後頭部にまわされ、強く唇が押し付けられた。


 長い長いキスが続く。


 野次馬たちは騒ぎこそしないものの、顔を見合わせて笑っていた。


 そしてキスの時間が終われば、晴れて三人は夫婦として神殿に認められた。

 豊穣を司る地母神コルニの祝福が与えられたのである。


 三人は退場することになった。


 そして野次馬たちに酒と料理が振る舞われる時間となった。


 領主の娘の結婚式である。

 それはつまり、領民にとってはお祭りに違いないのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ