61.結婚式(1)
シガンの結婚相手は5つ年下の15歳、アドリアンロット伯爵の次女アデル・アドリアンロットとなった。
そして同時に、シガンは未だ14歳のベルベット・ザールムントを第二夫人として迎えることになったのである。
貴族の子女との結婚は、通例として数年の間隔を空けるものだが、今回はザールムント子爵の返還要求への返事も兼ねているため、そしてベル自身が貴族の身分にこだわりがないため、例外的に成立した同時結婚である。
子爵家への結婚式の招待状は伯爵の手の者によって、無事に送り届けられたそうだ。
なおシガンはアデル・アドリアンロットとはまだ会っていない。
結婚式が初対面になる予定だからだ。
シガンとベルは結婚式の準備で目の回るような思いをしながら、あの伯爵との話し合いからたったの1週間でのスピード結婚式となった。
準備期間は貴族の結婚式としては異例なほど短かったが、かと言って貧相なものにはならない。
なぜならシガンは今や巨大野菜とダンジョンの入場料で荒稼ぎしていたし、冒険者としても高難易度の依頼を消化して懐はパンパンに膨れていた。
また一方の父親であるアドリアンロット伯爵も巨大野菜とダンジョンの入場料で稼いでいたから、ここ最近の資産はかなり増加していた。
結果として準備期間に反して、貧相どころか贅を凝らした結婚式が可能となったのである。
そもそもシガンは貴族ではないから、招待客はほとんどいない。
シガンが招待したのは、ザールムント子爵家と恋人たちとガールだけである。
アドリアンロット伯爵も跡取り息子ならばともかく、二番目の娘の結婚式に貴族を大勢呼ぶ必要はない。
せいぜい仲の良い周辺貴族に二番目の娘が結婚することになったことと結婚式の日取りを知らせただけで、出席の確認もしていないほどだ。
かくして当人たちの心の準備もできていないまま、結婚式の幕は上がった。
ザールムント子爵はシガンという男を見て、まず怒りがこみ上げてきた。
そして次に貴族の視点で侮れない人物であると警戒心を抱いた。
更に最後に、その人物が最愛の娘の結婚相手であると認めると、静かに涙を流した。
「初めまして、お義父さん。俺がスカジャンのシガンです」
「初めまして婿殿。どうやらベルベットは良縁を自ら勝ち取ったようだ」
ふたりは握手をする。
「お父様……!」ベルはふたりの和解に涙を浮かべながら父に抱きついた。
「おお、久しいなベルベットよ。やつれたのではないか? いや引き締まったというべきか。もう私の知る、か弱い娘はいないのだな」
「ごめんなさい。でも私、自分の人生は自分で切り開きたかったの。ほら、見てよ。最高の男でしょう?」
「確かに。スカジャンのシガン殿は最高の男だ。だがベルベット、ならばこそ二番目で良かったのか?」
「……それは未だに納得していないけど、第一夫人になる子にまだ会ったこともないから分からない。一杯喧嘩するかもしれなけど、シガン様の最初の恋人は私だもの。妻の順番がどれほどのものか、戦って愛を勝ち取るわ」
「そうか……」
ザールムント子爵はベルの頭を撫でると、シガンに向けて言った。
「娘をよろしくたのむぞ」




