54.マジックバッグ(2)
ダンジョンの第三階層で大容量のマジックバッグが発見されたとの一報は、冒険者たちの間にすぐに広まった。
同時にミノタウロスによって死者が出たことも、すぐに広まった。
一攫千金を狙う冒険者たちでも、ミノタウロスは恐ろしいのだ。
恐らくマジックバッグの宝箱はレア扱いだろうから、定期的に復活するようなものではない。
そうこうしている間にきっとミノタウロスが先に復活する。
ジレンマに悩んだが、命あっての物種。
いかに危険を冒す冒険者たちでも、分の悪い賭けに命を張って一攫千金に挑む気はなかった。
……意外と冷静なんだな。
シガンはダンジョンの入り口を見ながら、第三階層までは行かないと決めているパーティたちを見てそう思った。
第三階層の地図は既に冒険者ギルドで複写の作業に入った。
あれを見たらまた反応が変わるだろう、とシガンは冷めたことを考えながら、第四階層のマッピングの準備を始めた。
第四階層ともなると、歩いて第一階層から第三階層を踏破した後で探索することになる。
時間がかかるため、一日で終わらない可能性が高い。
そのため何度かに分けてダンジョンアタックすることに決めてある。
まだダンジョン内で野営をする危険を冒すつもりはなかった。
領主館ではダンジョンからマジックバッグが出たことに頭を悩ませていた。
マジックバッグは本来ならば軍需品。
喉から手が出るほど欲しい品だ。
しかし領軍を派遣しても、ミノタウロスはどうにもならないと分かっている。
狭い通路に兵士を並べても、それが騎士であっても被害が出るのは想像に難くないからだ。
そこでシガンを呼びつけることにした。
シガンはすぐにやって来た。
「スカジャンのシガン、ダンジョンからマジックバッグが出たそうだな」
「そうですね。それがなにか?」
「……できたら、次に出たマジックバッグを私に売ってほしい。冒険者にとってもあれは便利なものだが、領を守る軍にも有益な品なのだ」
「分かりました。次に出るものはお売りします。今後、2つに1つは伯爵様にお売りするということでどうでしょう?」
「なに!? そんなに手に入る見込みだというのか!?」
「いえ。見込みはありませんよ。ただの口約束です」
「そ、そうか……そうだな。そういくつもマジックバッグが入手できたら、そなたはダンジョンに潜る必要もなくなる」
そんなことはないのだが、アドリアンロット伯爵はまだシガンという人物を見極めきれていなかった。
シガンとしても伯爵の人柄がどのくらいデキているのか、見極めきれていなかった。
てっきり入手したマジックバッグを売ってくれ、と言われるかと思っていたくらいだ。
話し合いは始終、穏便に進み、シガンは第四階層以降のマッピングに集中することにした。




