50.ミノタウロス(1)
第三階層のマッピングに挑戦する。
パーティメンバーにガールを加えたことで、今まで歪だったパーティに安定性が生まれた。
これまでは前衛にシガン、後衛にベルとアティとターニアというワントップだったが、ガールの加入で前衛がふたりになったのだ。
そしてそのガール、……べらぼうに強かった。
「すげえな。あの距離から魔物をバラすか。指先のワイヤーってのは目に見えないくらい細いのによく切れるんだな」
「はい。構造は単分子シートですから、横からだと視認は特に難しいでしょう」
「単分子シート? つまり極薄ってことか……そりゃ切れ味もさぞ凄まじいだろうな」
「マスターは不思議ですね。この退化した文明の中にあって、単分子シートが何か分かるのですから」
「俺は特別だからな」
「はい。マスターは私にとって特別です」
そのとき、アティが警戒を発した。
「シガンさま、前方からたくさんの足音が近づいてくるよ! 多分、冒険者!」
「帰りってことか?」
「わかんない。でも速歩きから走るペース」
「そりゃ、何かから逃げているんだ! 総員、警戒しろよ。ヤバいのが来るかもしれない」
バタバタとした走り方で冒険者たちがこちらに近づいてくる。
誰も彼もが必死の形相だ。
「おい、道を開けろ!」
「それはいいが、何があった!?」
「ミノタウロスが出た! こんな浅い階層なのに!」
「追われているのか!?」
「分からん! 多分、徘徊型だ!」
「情報、ありがとうよ」
「なに。いいってことよ」
シガンたちは道を開けると、撤退する冒険者たちに道を譲った。
「さて、ミノタウロス退治といくか」
「本気ですかシガン様!? ミノタウロスは迷宮の守護者と言われる化け物ですよ!? あのオーガよりも強いんですよ!?」
「……ていうか、このパーティの充実ぶりを見て今更オーガを引き合いに出すのはどうなんだ、ベル?」
「…………そういえばそうですね」
「シガンたちはオーガを倒されたのですか?」ターニアが驚いた様子で問うた。
「ああ。あの時は俺とベルとアティの3人だった。それが今じゃ5人。ミノタウロスってのがどんなにヤバくても、苦戦する気がしない」
「シガンさま、でもミノタウロスはオーガよりでっかいって聞いているよ?」アティが問うた。
「そのくらいなんとでもなる。的が大きければ、ベルとアティの支援もやりやすいだろ」
「それはそうだけど。危ないのはシガン様たち前衛ですよ?」ベルが心配そうに言った。
「俺の隣にはガールもいる。心配ないさ。さあ、行こうぜ。久々に楽しめそうだ」
シガンは強敵の到来に胸躍る気持ちでいた。




