49.カイト
ダンジョンの第二階層にあるガールのいた隠し部屋から資料を全て回収し終わり、いよいよ第三階層のマッピングに向けて準備をしている最中のこと。
ダンジョン入り口ゲートの向かい側に1件の商店が立った。
そこでは保存食に始まり、ロープやくさび、砥石や短剣など、ダンジョン探索に役立ちそうな品物を扱う店だった。
何気なくお向かいさんに挨拶に行ったシガンは驚いた。
店主はあのカイトだったからだ。
「シガンさん、ご無沙汰しています」
「ああ、カイト。お前、商売を始めたのか」
「はい。アドリアンロットにダンジョンが現れたと聞いて、これだと思って全て投資しました。これからはまっとうに商売人として生きていきたいと思います」
「そりゃ良かった。ついでにいい嫁さんを貰えるといいな?」
「それですが……聞きましたよ。シガンさん、また恋人が増えたとか。いずれ刺されるのではと心配しております」
「うーん、ガールとは今の所そういう関係にならないと思うが……まあ気をつけるよ」
「ですがシガンさんなら何人でも恋人が作れそうで羨ましいです。何か格好良く生きるコツでもあるんですか?」
「簡単なことだ。常に妹が見ていると思えばいい」
「シガンさんにも妹さんが?」
「ああ。お前と一緒で亡くなっているがな」
「そうでしたか……思い出させてしまいましたか?」
「俺の言ったことを聞いていなかったのか? 常に妹に見られていると思え。そうすれば自然と背筋が伸びる」
「なるほど……シガンさんは強いのですね」
「よせ。……本当に見られているしな」
「??」
シガンは向かいの店から出ると、ゲート前で待つパーティメンバーたちの元へ向かう。
背後で幼い少女がため息まじりに言った。
「お前が●を妹扱いするとは思わなんだ。●は神になったのだぞ? 人間の妹などでは、とうにないのじゃ」
「いいじゃねえか。神様になる前は、確かに俺の妹だったんだから。短い間だったけどな」
「ふん。●は覚えておるぞ、お前の怒りの目を。恐れの心を。……そして悲しみの痛みもな」
「よせよ、●。らしくないぜ」
「そうじゃな……昔のことじゃった。今はもう、……」
背後の幼い少女はかき消えるように呟いて、そのまま消えた。




