48.ガール(3)
満月の夜、シガンは再び召喚の儀式を行うことにした。
ただし魔法陣の中心に立つのはシガンではなく、ガールだ。
予め魔物を味方にする魔術だと説明してあった。
「じゃあガール、鶏の首を掻き切って血を魔法陣に垂らしてくれ」
「はい、了解しましたマスター」
言われたとおりにすると、魔法陣は満月の輝きを浴びて赤く光り始めた。
「《ガールの情操教育にちょうどいい奴が召喚される》といいな」シガンは呟いた。
するとどこからともなく一匹の猫が現れた。
尻尾が2本あるから、シガンは猫又だと判断した。
猫又は鼻をガールの足にこすりつけると、「なう」とひと鳴きした。
「マスター、この魔物が私の味方なのですか?」
「そうだ。お前の言うことしか聞かないだろうから、これからガールが面倒を見るんだ。餌をあげたり、遊んであげたりするんだぞ」
「餌はともかく、遊ぶ? データにありません。マスター、教えて下さい」
「ああ。だがその前にソイツに名前をつけてやってやれ。魔物と呼ぶんじゃ、他の魔物と区別がつかないだろう?」
「……ではタマと」
ガールの足元で丸まっている猫又を見て、ガールの口元が少しだけ緩んだように、シガンには見えた。
猫じゃらしで猫又と真剣に遊ぶガールを見ながら、ベルとアティとターニアは羨ましそうにそれを眺めていた。
「どうした3人とも。ガールが羨ましいのか」
「シガン様、私もペットが欲しくなりました」
「シガンさま、私も!」
「……シガン、確かにあれはすごく可愛いわ。魔物だと思えないくらい」
猫又のタマは大人気だった。
「おいガール、たまにはこいつらにもタマを可愛がらせてやってくれるか?」
「……マスターがそう仰るなら」
「嫌ならいいんだぞ?」
「いいえ、とんでもありません。タマはガールのスレイブです。マスターの恋人たちが可愛がるのに否応はありません」
「そ、そうか……」
まだまだガールが少女になる道のりは遠いらしい。
だがシガンは最初に見せた一瞬の躊躇を、見逃してはいなかった。




