44.ダンジョン(3)
――ダンジョン始めました。
ゲートにかかった看板に、冒険者たちが脱力する。
スカジャンのシガンの屋敷の庭の一部を改装して、ダンジョンへの直通ルートが確保されている。
入場と退場を管理するのは、領主から派遣された文官たちだ。
初日はダンジョン開通式をシガンが行い、物議をかもしたが、とりあえず好奇心旺盛な冒険者たちはパーティを組んでダンジョン探索に乗り出した。
第一階層の地図は既に冒険者ギルドで売られている。
さぞ人口密度が高いだろうと察した冒険者たちは、積極的に第二階層へと潜っていくのだった。
シガンは自分の家のダンジョンなのに先を越されて悔しい思いをしたが、入場料の一部が不労所得となるので我慢することにする。
そして斥候のいないパーティが早々に脱落していき、実力のあるパーティは第三階層へと進んだのか音沙汰がない。
まさか全滅しているわけではなかろうと、文官たちも固唾を呑んでゲートを見守る。
そして出てきた冒険者たちは、魔石や換金部位、宝箱からでた宝石などを持って笑顔満面であったという。
しばらくは屋敷の整備を見守ったり、非常時の対応の打ち合わせなどに追われたシガンだったが、数日遅れでダンジョンに再び潜る機会が訪れた。
「よし、今日からはガンガン潜って、先行パーティどもに追いつくぞ」
「シガン様、あまり無茶はなされないように」
「シガンさま、領主さまから地図を優先するようにって言われてたでしょ」
「シガン? 嬉しいからってあまりみんなを困らせないでね」
「ぐぬぬ……地図かあ」
そう、地図である。
先行しているパーティは独自の地図を持ち、秘匿しているのである。
公益には反するものの、地図を開示しろとは言えない。
彼らも危険を冒して得た情報だから、金を出して買うしかないのだ。
そうでないならば、領主側で直々に調査をしなければならない。
そこでお鉢が回ってきたのがスカジャンのシガンというのは、当然のことである。
領主とはずぶずぶの仲とはいえ、ここで頼み事を断って屋敷を取り上げられるのは困る。
ここにきてシガンは屋敷の下にダンジョンというのはちょっと安直だったと反省した。
少しだけだが。
「よおし、第二階層から地図、作っていくぞー」
とはいえシガンも現代日本人だ。
こういうマッピング作業は嫌いではない。
未探索の場所に何か大事なものがあるより、苦労してでも全て回る方が気が楽な日本人なのである。




