37.召喚
シガンは野菜の面倒を見たり冒険者ギルドでオークの討伐依頼を受けたりしながら、『暗黒魔術の実践』を読み込んでいた。
読めば読むほど怪しい本だが、なんとも説得力のある書き方にシガンは魅了されていた。
●が背後でため息まじりに言った。
「まったく……おかしな魔術にハマるでない」
「やっぱりこれは魔術なのか。これなら俺にもできるのか?」
「危険なものは止めておけ。オススメは召喚じゃが……それも運次第では危険じゃ」
「よし、召喚だな。覚えておく」
「まったく。嫌なものを見つけおったわ……」
●が背後でため息まじりに消えた。
数日後の夜。
満月の明るい夜に、庭に大きな魔法陣を描いたシガンが、鶏を用意して召喚の儀式を行うことにした。
ベル、アティ、ターニアはあの『家伝の棒倒しと同じような魔術』だと言われたので、見学することになった。
ベルだけは懐疑的だったが、ターニアは「あのような手法の儀式も神事には多いですよ。効果はさておき」というので、ベルの常識はすっかり揺らいでしまっていた。
シガンが鶏の首を斬り、血を魔法陣に流すと、満月の光がひときわ強く輝き魔法陣を照らした。
するとジワジワと鶏の血が広がっていき、真っ黒な血が泥のようになってシガンの足を捉えた。
ベルたちはどうしていいか分からず、呆然としている。
シガンは刀で地面を突き刺した。
すると真っ黒い何かはビクリと震え、霧散していった。
「「「「…………」」」」
全員が何が起こったのか理解できず、困惑していた。
ターニアが勇気を出してシガンや刀、魔法陣などを鑑定していく。
するとシガンの影に何か魔物が潜んでいることが判明した。
「シガン、そこに魔物がるわ。急いで刀で殺して」
「いや。この魔物は俺の味方だ。何となく分かる」
「そうなの……?」
「ああ。そもそも味方を召喚する魔術なんだ。最初のは俺の力量を試したんだろうな。今は大人しくしているよ」
影の中の魔物は、シャドウストーカーという魔物だとターニアは鑑定した。
影に潜み、人間を暗殺する凶悪極まりない魔物だ。
人間に味方するなどとは考えられない魔物だった。
「信じられないなら見せてやるよ。出てこいシャドウストーカー」
「――――」
にゅるり、と影が這い出る。
人間のシルエットだが、平面だ。
シャドウストーカーは手を振ると、再びシガンの影の中に入っていった。
「なかなか便利そうな奴だったな」
「「「…………」」」
三人のおなごは常にアレがシガンの影の中にいるのかと微妙な気持ちになったという。




