36.アティ(3)
アティとのデートは孤児院だ。
それでいいのか、とも思ったが、行ってみると「スカジャンのシガンさま、いつもありがとうございます!!」と大歓迎された。
どうやら頻繁に寄付しているので、院長が子供に言わせているらしい。
嫌いではない演出だが、複雑な気持ちになったシガンだった。
「それで。様子を見るって誰か気になる奴でもいるのか?」
「うーん。冒険者になりたいっている男の子たちかなあ。シガンさま、よければ現実を教えてやってくれますか?」
要は大した腕前もないくせに冒険者になって一旗上げてやろうという子供の夢をぶち壊せと言われているらしい。
「アティは良かったのか。冒険者になって」
「私は目がいいし、斥候になれるって思ってましたから。でも他の男の子たちは大した腕もないのに剣士になる剣士になるって……だからお願いします」
なるほどアティは自分の適性を分かっているようだ。
仕方ないので、少年たちの夢を壊す役割を負うことにした。
最初こそスカジャンのシガンと木剣で勝負できると大喜びの少年たちだったが、次第に全く勝てないことに気づくとどんどん不機嫌になっていき、仕舞いには木剣を放り出して遊びに行ってしまった。
子供のこととは言え、可哀想やら憎らしいやらで困ってしまった。
ただひとり、シガンに何度負けても楽しそうに木剣を振るう少年がいた。
名をフェイ。
12歳でアティと同い年だ。
フェイはどれだけ負けても剣を投げなかった。
称賛に値するが、とはいえこの程度の腕前では死ぬのがオチだともシガンは思った。
言霊を使えば冒険者を諦めさせることは簡単だ。
しかしそのようなことに言霊をほいほい使いたくはなかった。
仕方がないので、シガンは言った。
「お前の腕前じゃゴブリンも殺せない。残念ながら冒険者にならない方がいいぞ」
「そんな……でも俺、コレ以外に取り柄もないよ」
「取り柄ねえ……」
ふとシガンは思いつきで言霊を使うことにした。
「《フェイの才能を活かせる職業の人が、孤児院でフェイを見出す》」
何も起きなかった。
だがやれることはやったとして、シガンはそれ以上、関わることを辞めた。
後日、フェイは手先の器用さを認められて服屋の見習いになったらしい。
言霊が働いたのか、それとも全く関係なくフェイがチャンスを掴んだのか、それは定かではない。




