35.ベルベット(4)
「デートだ!!」
「デートだ!!」
ベルとアティが、神殿参りから帰ってきたシガンとターニアに怒りをぶつける。
少々面倒だが、どうやらターニアはベルとアティに受け入れられているようなので、その辺りの心配はもうしなくても良さそうだ。
「なんだ、俺とデートしたいなら順番を決めろよ? そもそも俺はこの街に詳しくないから、行きたい場所がなければ……」
「シガン様、私は本屋へ行って魔導書を探したいです!」
「シガンさま、私は孤児院でみんなの様子を見に行きたいです!」
「分かった分かった。別々の日にしような。順番はベルからでいいのか?」
「はい!」
「ずるい……けどベルが一番。ターニアは三番なんだから、アティを追い抜いたら駄目なんだからね!?」
「ええ、わかったわアティ」ターニアが丁寧に謝った。
ベルと本屋に来た。
ここでは魔導書が売っている。
新たな魔術を習得するためには新しい魔導書が必要らしい。
「魔導書があれば俺も魔術を習得できるのか?」
「え、はい。できますよシガン様なら!」
「できるわけなかろう、地球人のお前が」
●がひっそりと背後で釘を刺してきた。
……なるほど、俺には無理なのか。
もっとも、便利な言霊があるから十分なのだが。
ベルは魔導書を厳選するために分厚い書物と格闘している。
デートだったはずだが、完全にシガンは放ったらかしだ。
シガンは何気なく本を眺めながら、魔導書以外の本も結構な数があることに気づいた。
恋愛小説だったり、騎士道物語であったり、料理のレシピ本なんてものまである。
……そういえば本屋だもんな。
物騒な魔導書以外にも色々あるとなれば、シガンも暇を潰せる。
活字を読むのは久しぶりだ。
背表紙を眺めながら、何か面白い本を一冊購入しようと探していると、奇妙な本を見つけた。
手にとってすぐに分かった。
人間の皮の装丁だ。
趣味の悪い本のタイトルは『闇黒魔術の実践』という怪しげな本だった。
「おいベル。これも魔導書か?」
「はい? ……違いますよ。これは魔導書じゃありません。スクリプトが書かれていませんから」
「スクリプト?」
「そうです、魔術の仕組みを文章にしたものです。それは何か生贄を捧げて魔法陣を書いて~なんて怪しげなことしか書いていないじゃないですか。そんな嘘っぱちが並べられている本は魔導書じゃありません」
「そ、そうか……」
生贄を捧げる方がよほど魔術らしいのだが、とシガンは思い、この本の購入を決めた。




