34.ターニア(2)
ターニアは魔術師ではなく神官らしい。
怪我の手当と神智学に通じており、また魔術と鑑定を得意としているそうだ。
ターニアが鑑定したところ、シガンの衣服一式は見たことのない強力な呪いがかかっており、刀に至っては国宝級の銘刀であることが保証された。
……まあ分かっていたことだけどな。
シガンはこの世界の宗教についてターニアに問うた。
「最上位に世界開闢の神、名を唱えることの許されぬ無名の神が存在おわすわ。次いで神を支える眷属神たちにはそれぞれ名前があり、これは複数おわすと言われているの。さらに神々の使いである天使が存在するそうだけど、これは未確認で議論百出しているわね。ただ竜は神からの用事を頼まれることがあるため、天使イコール竜であるという極論も存在するとか」
「その一番えらい神様には名前がないのか? 呼ぶ時には不便じゃないのか?」
「世界開闢の神を呼ぶことはめったにないわね。呼ぶ際には『唯一の神』と呼ぶことが多いわ。眷属神はそのまま名前に様づけかしら」
「なるほどなあ。例えば、戦いを司る神は何かいるか?」
「そうね……神話の中では黒竜から神に昇神したイズキ様という神が戦いを司る神の中では一番強いかしら」
「戦いを司る神は複数いて、中でも一番強いのがイズキ神なのか」
「そうよ。神話の限りでは、だけどね。神話も人が竜より聞き取ったもので、どこまで真実かは不明なの」
「じゃあイズキ神にまつわるなにかお守りみたいなものはあるのか?」
「あるわよ。神殿に行けば、冒険者向けのものが。でもシガンが信心深いとは意外だったわ」
「いや、俺は神様を信じるよ」
「そう……。冒険者には神はいないなんていう人が多いものだから……誤解していたわ」
シガンは午前中、ターニアと神殿詣でに行くことにした。
ターニアの案内で初めて神殿に入ると、なつかしい神社のような寺のような不思議な感覚を覚えた。
シガンはマヨイガにも似ているな、と思った。
「こちらがイズキ様のお守りね。寄進は銅貨1枚から可能よ」
「じゃあ……」
シガンは銀貨1枚を寄進して、黒い鱗をかたどった木彫りのお守りをもらった。
背後で●が鼻息を荒くしてまくしたてる。
「●というものがありながら、他の神のお守りをもらおうとはいい度胸だ!」
「…………」
シガンはターニアの前で独り言を言うことを拒んだ。
「ええい無視しおって……●のお守りも買え!」
「え、●にお守りがあるのか?」
思わず背後を振り返ろうとして、すんでのところで思いとどまるシガン。
背後は振り向いてはならない。
約定で決められているのだ。
「あのシガン? 急にどうしたの?」
「ああ、その……おかしな名前なんだが●っていう神様はいるかい?」
「ああ、●様ね。『マル様』とお呼びしているけど、よく知っていたわね。この神様は何を司るのか全くの謎で、神話でもあまり取り沙汰されていないのに」
「よければ●神のお守りも欲しいんだが」
「分かったわ。多分、あっちにあると思う」
同じように銀貨1枚を寄進して、黒塗りの丸い木彫りのお守りを貰った。
……果てしなくご利益を感じないぞ。
背後に●の気配を感じる。
こんなに近くに感じたことは初めてだ。
シガンのすぐ背後から、覗き込むように丸い木彫りのお守りを見ている。
「●が聖別してやろう。これでご利益は満点じゃぞ」
「…………」
なにをやらかす気だ、とシガンは気が気ではなかった。
するすると●から木彫りのお守りに何かが入っていく。
聖別とやらは2秒で終わった。
「なあターニア、これを鑑定してくれ」
「え? うん…………え!!?」
「どうだ?」
「凄いわ……致死ダメージの移し替えだなんて。●様って防護の神様だったのね。いえそもそも、なぜこのお守りにだけこのような効能が?」
「色々と秘密なんだが、俺と●神は縁があるんだ。俺も何を司っている神かは知らないが、とにかく効果があるなら持っておくことにするよ」
「なんという……シガンは神と縁があるというの……神官でも珍しいことよ。それも●様だなんて」
「秘密にしておいてくれ」
「ええ……」
それからターニアの解説つき神殿めぐりをして、屋敷に帰ることにした。




