29.オークの集落
商売に第3フェーズがあるとするなら、それは屋敷の人間に畑を任せることだ。
最初はどうしてもシガンが言霊を使わなければならないが、それ以降は品種改良された巨大野菜から種子を取る目的で家庭菜園を管理するだけでいい。
それはモニカとニコラとミカヤの仕事となった。
こうして屋敷の人間が生活に困らないようにしておくことで、シガンは危険な依頼を受けられるように準備をしておいた。
すべては戦いのために――。
ベルとアティを連れて久々に冒険者ギルドへ顔を出したシガンは、依頼にオーク討伐が増えていることに気づいた。
「おい、なんかオーク討伐依頼が出ているぞ?」
「シガン様、多分ゴブリンリーダーの集落が崩壊したことで、空白地帯にオークが入り込んだのではないかと」
「そういうことか……まったくあっちを立てればこっちが立たずだな」
「? 面白い言葉ですね。ですがその通りです」
「あ、オークの集落の探索依頼もあるよ!」アティが言った。
「ほう。斥候と家伝の魔術があれば楽勝だな。今回もこっちをやるか」
「いいですね。…………あれ、私の価値って一体?」ベルは言いながら自問自答した。
受付嬢にオークの集落の探索依頼を処理してもらい、久々に山に入る。
どこか雰囲気が変わったか? とシガンは気配の違う山に戸惑いながら、棒きれ倒しをする。
「《オークの集落の方向へ倒れる》」
パタリ。
「よし、行くぞ」
「いつ見ても凄い魔術ですねえ……」ベルが苦い顔で言った。
「でも当たるから凄いよシガンさまは!」魔術師ではないアティはなんとも思っていないようだ。
道中で遭遇したオークを数体狩り、強さを確かめる。
身長は2メートルくらいとオーガ並にでかいが、強さはゴブリンに輪をかけた程度のものだった。
チカラが強いがオーガほどではない。
なんともシガンにとっては半端な相手だった。
木々の間からオークの集落を発見すると、地図が正しいことを確認しながら山を降りた。
冒険者ギルドでオークの魔石を換金し、依頼の成功報酬を得る。
オークの魔石は1体銀貨2枚、成功報酬は銀貨30枚で、合計銀貨44枚になった。
やはり冒険者の方が稼げるなあ、とシガンは思ったが、安定収入のある野菜も悪くない商売だと思った。
少なくとも種子は野菜そのものより高値で買い取ってもらえるはずだ。
値段交渉は領主との身分差で無意味だからしなかったが、良君ならば金貨で買ってくれるだろうと思っている。
それに金塊を預けたままだ、その貸しも加味してくれるだろうと思っていた。
実際、屋敷に帰るとメイドたちは金貨の入った袋をテーブルに置いて遠巻きにしていた。




